日本大百科全書(ニッポニカ) 「誘い水政策」の意味・わかりやすい解説
誘い水政策
さそいみずせいさく
pump-priming policy
財政政策、たとえば支出拡大政策によって国民経済全体の総需要、したがって所得水準を拡大することができる。しかし、財政支出追加の効果が出尽くすと、まもなく所得水準はもとの水準に落ちる。なぜなら、次の段階では追加支出がない分だけ、逆に財政支出が削減されたと同じ効果をもつからである。したがって、所得水準を引き上げたままに維持するためには、財政支出の水準を、この追加支出を加えた高い水準に維持しなければならない。ただし、1回限りの財政支出追加によって総需要が拡大し、それに民間経済活動が刺激され、消費や投資が誘発される可能性もあり、それが財政の追加支出継続のかわりを果たして、所得水準を高めた状態に維持しうる場合もある。このような意図をもった財政支出の追加を誘い水政策または呼び水政策という。
1930年代の大恐慌の時期にアメリカではニューディール政策の一環として、赤字公債の発行によって政府支出を増大し、国民経済を刺激して景気の回復を図る政策がとられたが、これが誘い水政策の最初で、またもっとも典型的な例である。今日のフィスカル・ポリシーの萌芽(ほうが)的形態とみることができる。
[藤野次雄]