日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤い部屋」の意味・わかりやすい解説
赤い部屋
あかいへや
Röda rummet
スウェーデンの作家J・A・ストリンドベリの長編小説。1879年刊。ストリンドベリの出世作であるばかりでなく、スウェーデン自然主義文学の最初の作品。作家志望の主人公アルビード・ファルクの理想主義的な姿勢は挫折(ざせつ)に終わるが、そこに盛られた憤懣(ふんまん)は作者自身はけ口を求めていた周囲への憤懣にほかならない。副題に「芸術家、作家たちの生活の描写」とあるように、1870年代のストックホルムの風物を背景に、レストラン「赤い部屋」を中心に登場する人物を鋭く風刺的に描き多くの読者を得た。全体に小説としての構成は緊密を欠き、主人公ファルクを別とすると登場人物の描写もスケッチ風ではあるが、それに対しては、副題がこの作品の性格を示している、という解釈が成り立つであろう。
[田中三千夫]