スウェーデンの劇作家、小説家。1月22日生まれ。父はストックホルムで船会社を経営し、母は給仕女あがり。13歳で母を失い、家運は傾く。暗い家庭環境のなかで、彼の生涯を貫く反抗的姿勢が芽生える。ウプサラ大学に学んだが、作家を志し、『ローマにて』(1870)、『平和なき者』(1871)、『ウーロフ師』(1872)などの戯曲を書き、世に認められる。ジャーナリスト、王立図書館司書などの職につき、77年には軍人貴族の元妻シリ・フォン・エッセンと結婚。ジャーナリスト時代の見聞を織り込んだ風刺小説『赤い部屋』(1879)で文壇の寵児(ちょうじ)となる。妻シリが女優となったことから劇作に打ち込む。短編集『新国家』(1882)、詩集『詩』(1883)などの辛辣(しんらつ)な風刺、毒舌が禍(わざわい)して、1883~89年にかけてスイス、フランスなどで逃避生活を送る。女性観を盛った『結婚物語』(1884、86)が裁判沙汰(ざた)となる。以後、自伝小説『女中の子』(1886、87、1909)、自然主義戯曲『父』(1887)、『令嬢ジュリー』(1888)、『債鬼』(1890)、小説『大海のほとり』(1890)などの傑作を書く。しかし91年に、かねてから調和を欠いていた妻との間がこじれて離婚。この間の事情は小説『痴人の告白』(1888)に詳しい。92~96年おもにパリ、ベルリンに滞在、93年オーストリアの女流ジャーナリスト、フリーダ・ウールと結婚するが、97年には離婚。この92~97年はいわゆる「地獄時代」で、彼はこの間、物心両面で困窮し、異常な精神状態のうちに、錬金術、神秘思想に凝った。『地獄』(1897)、『伝説』(1898)はその間の事情を物語る自伝小説である。
その後『グースタブ・バーサ』(1898)、『カール12世』(1901)などの史劇を手がける。伝統的形式を脱した戯曲『ダマスクスへ』(1898、1904)、『死の舞踏』(1901)、『夢幻劇』(1902)などは、以降の作品の展開にとってより深い意味をもつ。1901年女優ハリエット・ボッセと結婚するが、04年に離婚。07年、161人収容の小規模な「親和劇場」を開き、上演時間1時間程度の室内劇『稲妻』『焼け跡』『幽霊ソナタ』『ペリカン』の四編を同年に書く。劇場は10年に閉鎖。当初スウェーデンでは不成功に終わったこれらの戯曲は、後年ラインハルトの演出、オニールの評価によって、本国でも改めて高く評価された。最晩年の作に韻文劇『大街道』(1909)がある。論争的な『黒旗(くろはた)』(1907)、それの「注釈」と彼自らが銘打つ、警句に満ちた『青書(せいしょ)』(1906~09)にもみられるように、抗争的姿勢は終生変わらなかった。女性に対し激しい愛と憎しみの間を動揺し続けた事実は、3回の離婚歴がよく物語っており、彼を女性憎悪者として世間に強く印象づけた。社会に対して抗争的な彼が強い階級意識を抱いていたのは当然だが、それは実践にはつながらず、むしろユートピア的であった。作家的関心の領域はきわめて広く、自然科学、錬金術にも及び、東洋、日本にも強い興味を示した。絵筆もとり、写真にも熱中したが、彼の特異な性格から、ゲーテのように円熟の境地には達しなかった。1912年5月14日の死に至るまでの4年間を、「青い塔」とよばれる建物の一郭で孤独のうちに過ごす。ここは現在ストリンドベリ記念館として保存されている。
日本では森鴎外(おうがい)訳『債鬼』『稲妻』などを大正初期に上演、さらに昭和にかけて山本有三、小宮豊隆(とよたか)らによって他の戯曲も紹介された。小説の翻訳、選集の出版も行われた。『令嬢ジュリー』は日本でもっともなじみ深い戯曲で、『痴人の告白』は女性憎悪者の彼を強く印象づけたが、日本の読者層に定着した作家とはいいがたい。翻訳は独訳または英訳からの重訳が多かった。
[田中三千夫]
『毛利三弥他訳『ストリンドベリ名作集』(1975・白水社)』▽『山室静他訳『イプセン・ストリンドベリ集』(『決定版世界文学全集10』1954・河出書房)』
スウェーデンの作家。父はストックホルムで船会社の仕事をし,母は給仕女。13歳で母を失い,家運は傾くという環境の中で,彼の生涯を貫く反抗的姿勢が芽生え,はぐくまれてゆく。ウプサラ大学に学び,初期の戯曲《ローマにて》(1870),《平和なき者》(1871),《ウーロフ師》(1872)などが認められ,1877年には軍人貴族の妻シリ・フォン・エッセンと結婚。小説《赤い部屋》(1879)で一躍文壇の寵児となった。しかし持ちまえの辛辣な風刺が災いして83-89年スイス,フランスなどで逃避生活を送るが,作家としては充実した時期で,自伝的小説《女中の子》(1886-87,1909),自然主義劇《父》(1887),《令嬢ジュリー》(1888),《債鬼》(1890)などを書いた。91年にはかねてから調和を欠いていた妻との間がこじれ離婚,この間の事情は《痴人の告白》(1888)に詳しい。92-96年おもにパリ,ベルリンに滞在,93年フリーダ・ウールと結婚,97年には離婚。1892-97年は〈地獄時代〉といわれる時期で,窮地に立った彼は異常な精神状態のうちに錬金術,神秘思想に凝ったりした。《地獄》(1897),《伝説》(1898)はこの間の事情を物語る自伝的小説である。《地獄》以後,諦念につながる新境地,夢幻的体験を伝統的な形式にこだわらずに表現しようとする戯曲《ダマスクスへ》(1898,1904),《死の舞踏》(1901),《夢幻劇》(1902)を発表。1901年女優ハリエット・ボッセと結婚したが3年後には離婚。07年小規模の〈親和劇場〉を開き,室内劇といわれる《稲妻》《焼け跡》《幽霊ソナタ》《ペリカン》の4編を同年に書いた。最晩年の作品には韻文の戯曲《大街道》(1909),論争的な《黒旗》(1907),警句にみちた《青書》(1906-09)などがある。死に至るまでの4年はストックホルムの〈青い塔〉と呼ばれる建物の一郭で孤独のうちに過ごした(現在,記念館として保存されている)。抗争的な彼は強い階級意識の持主ではあったが,それは実践的な社会主義にはつながらず,むしろユートピア的なものであった。彼の関心領域はきわめて広く,自然科学,東洋・日本学にも及び,絵筆をとり写真にも凝ったりした。日本では森鷗外訳の《債鬼》《稲妻》などが大正初期に上演され,さらに昭和期にかけては山本有三,小宮豊隆らによって他の戯曲も紹介され,小説の翻訳,選集の出版も行われたが,その翻訳もドイツ語訳,または英語訳からの重訳が多かった。
執筆者:田中 三千夫
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1849~1912
スウェーデンの劇作家。先駆的近代劇作家としてノルウェーのイプセンと並称される。戯曲のみならず小説,詩,評論,歴史,科学などあらゆる分野にわたる作品を数多く手がけた。代表作に『令嬢ジュリー』『赤い部屋』『ダマスカスへ』などがある。『令嬢ジュリー』はその急進的な内容からスウェーデンでは1904年まで上演されなかった。
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…《野鴨》(1884)以降は近代人の内面問題に焦点をむけ,《ヘッダ・ガブラー》(1890)で日常生活に潜む人間心理の深淵を表現した。同じころ,隣国スウェーデンのJ.A.ストリンドベリも,《父》(1887),《令嬢ジュリー》(1888)といった男女の性の闘いを赤裸々に描いた自然主義戯曲の傑作を書いている。もう一人の近代劇の巨匠チェーホフは短編小説家として名を知られていたが,一幕物喜劇のあとに多幕物にむかった。…
…ストリンドベリの戯曲。2部7幕。…
…そのような劇場はいわゆる自由劇場運動の中でもすでに現れていたが,たとえばドイツにおいては1905年にM.ラインハルトが,ベルリンのドイツ座に付設開場したカンマーシュピーレKammerspieleがその代表的存在であろう。カンマーシュピーレとは,もともと〈室内劇〉の意味で,A.ストリンドベリも自分の戯曲のある種のものにこの名を与えていたし,拡大して考えればH.イプセンの《幽霊》などの劇も室内劇と考えられよう。またストリンドベリ自身は,ラインハルトの試みの翌年,故国スウェーデンでもっと小さい〈親和劇場〉を開場している。…
…このことは変転する国際政治の中にあって,微温的,傍観的と評されてきた従来のスウェーデンの立場とは一味違った印象を与えている。 スウェーデン文学史に登場する作家の中で,世界的に最も知名度の高いのは,いうまでもなくストリンドベリである。彼は周囲への反逆で一生を終始した。…
…現存在分析を創始したスイスの精神医学者ビンスワンガーの主著で,1957年に単行本の形で刊行された。5例の精神分裂病のくわしい症例研究からなるが,30年代に著者が独自の人間学的方法を確立したのち,数十年にわたる臨床活動の総決算として44年から53年にかけて集成したもの。ここでは,分裂病は人間存在に異質な病態としてではなく,人間から人間へ,現存在から現存在への自由な交わりをとおして現れる特有な世界内のあり方として記述される。…
※「ストリンドベリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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