ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「走百姓」の意味・わかりやすい解説
走百姓
はしりびゃくしょう
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…【藤木 久志】 近世に入っても,小百姓や隷属的な農民が,逃散に至らぬ小規模な抵抗の形態として村外,領外に逃亡することがしばしば行われた。初期の領主禁令では,このような欠落人を,多く走(はしり)百姓,走りものなどと称し,厳しい処分規定を設けている。欠落の類語に,家出,出奔,立退(たちのき),風与出(ふとで)などがあるが,中期以降は,階層,理由を問わず,これら居住地からの失踪行為全般を意味する用語として,欠落が広く使用された。…
…近世成立期の17世紀前半,逃散は領主に対する農民の主要な抵抗形態であった。その中には,〈走り者〉〈走百姓〉などの呼称であらわれる,隷属農民や小百姓の個別的な欠落から,大百姓が村内の小百姓や隷属農民を引き連れて村ぐるみで逃亡する集団的な逃散まで,さまざまな規模・形態のものが含まれる。このうち〈走り〉〈欠落〉などの個別的な逃亡を除外すると,逃散は単なる村からの逃亡ではなく,領主に要求を受け入れさせるための計画的な同盟罷業といった色彩をもつことが多かった。…
…例えば1618年(元和4)春,会津藩(蒲生氏)領の栃窪村では年貢諸役の重圧に抗して村ぐるみで百姓が逃散し,これに対して藩は年貢諸役を免じて〈田地は作取(つくりとり),諸役之儀も申付間敷……未進をも用捨〉と譲歩したが百姓は帰村せず,同年10月には肝煎(きもいり)以下全員が村に不在という荒廃状態になった。畿内先進地農村でも,河内国古市郡古市村の1594年(文禄3)検地帳には,村高1114石余のうちに〈ぬしなし〉の田畑が106筆,6町2反余,64石余も含まれ,〈うせ人〉3人が記載され,走(はしり)百姓跡の荒廃ぶりが示されている。同地域の事情を伝える《河内屋可正旧記》によると〈天正年中より文禄・慶長の終は,豊臣公の御知行所なりしが,諸役の懸り物大分にて,田畑を多く持し者は還而難儀に及べり……樽肴を添えて,皆もらかしたる事実正也〉という状況にあり,貢租過重による走百姓の出現によって,上層百姓の手作(てづくり)地には手余地が発生した。…
…この時代には組織的な武力一揆と分散的な逃散(ちようさん)とに農民闘争の形が二分されていた。小百姓層はきわめて不安定であり,多数の〈走百姓〉と呼ばれる欠落(かけおち)者がでた。大百姓の中のある部分も,大百姓に隷属する下人的農民も,領主負担を転嫁されて欠落した。…
…隷属農民をかかえる百姓は自分に課せられた夫役を代行させて免れたが,夫婦の働きが経営を支える単婚小家族農民(小農)の場合,男手を欠くことは致命的であった。そのために,近世初期には年貢の過重と相まって夫役の重さが小農民を危機に追いこみ,耕地を捨てて個別的に逃散(ちようさん)する〈走(はしり)百姓〉が多数生まれた。このような矛盾を解決するために,多くの藩では走百姓を厳禁する一方で,給人の恣意的な百姓使役を制限した。…
※「走百姓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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