造血幹細胞の機能と特性

内科学 第10版 「造血幹細胞の機能と特性」の解説

造血幹細胞の機能と特性(総論1:造血のしくみ)

 生体内のすべての血液細胞は多能性の造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)に由来する(図14-2-1).HSCの最も重要な特徴は自己複製(self-renewal)能と多分化能(multipotentiality)という2つの機能を兼ね備えていることである.つまり,HSCは個体生存する間,自己複製能によって自己と同じ性格,能力を有するHSCを産生しHSC集団を維持する能力と,多分化能によって各種血球を産生する能力をもった細胞である.HSCはこれらの能力により細胞分裂の際,HSC自身またはやや分化した前駆細胞を産生する(図14-2-1).通常の造血状態では,HSCほとんどは,細胞周期の休止期にあり,ごくわずかのみが増殖期に入っている.また,エネルギー代謝も低い状態に維持されている.
 HSCの増殖・維持・分化の制御には骨髄の支持細胞であるストローマ細胞とその周囲の細胞外マトリックスからなる骨髄微小環境や各種の造血因子が深くかかわっている.ストローマ細胞のうちでは骨芽細胞が最も重要であり,HSCにとっての生物学的適所(ニッチ:niche)を提供する.また,血管内皮細胞もニッチ細胞として機能することが報告されている.これらのストローマ細胞から産生されるSCF(stem cell factor),トロンボポエチン(thrombopoietin:TPO),IL-3(interleukin-3),IL-6,FLT3L(FLT3 ligand)などの造血因子,N-カドヘリンなどの接着因子,フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスがHSCの増殖・生存に深くかかわっている(図14-2-2).HSCが細胞分裂する場合,対称分裂して自己と同じHSCまたは前駆細胞を2個産生する場合と非対称分裂してHSCと前駆細胞を1個ずつ産生する場合があり,この頻度は上述の細胞外制御と細胞周期制御分子,転写因子などの内的制御によってコントロールされていると推測されるが,その詳細は明らかではない(図14-2-2).
 ヒトの造血幹細胞は,造血幹細胞移植術の際にはCD34陽性細胞として算定される.通常,造血幹細胞は骨髄内に存在し末梢血中にはほとんど存在しないが(CD34陽性細胞の比率:骨髄1%;末梢血0.01%),大量の化学療法後の骨髄抑制の回復期や顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF投与により造血幹細胞は末梢血中に流入する.また臍帯血中にも高頻度(0.3%)に存在する.[松村 到]
■文献
Abboud CN, Lichtman MA: Structure of the marrow and the hematopoietic microenvironment. In: Williams Hematology, 7th ed (Lichtman MA ed), pp35-72, McGraw-Hill, NY, 2006.
Dacie JV, Lewis SM: Practical Hematology, 7th ed, Churchill Livingstone, Edinburgh, 1991.
Kipps TJ: The lymphoid tissues. In: Williams Hematology, 7th ed (Lichtman MA ed), pp73-81, McGraw-Hill, NY, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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