生物の発生過程において,(1)一つのより単純な系または部分から,二つ以上の性質の異なる系または部分を生ずること,また(2)その直接的,間接的な結果として,新しい特性(分化形質)が発現してくることをいう。
個体発生の過程に見られる最も早期のめざましい分化現象は,原腸形成に始まる胚葉分化の過程であるが,さらにこれに続く器官原基の形成期には,(1)の意味における分化が活発に行われる。
脊椎動物の骨格筋の発生を例にとって,その分化の過程を見てみよう。骨格筋細胞の最も早い起原ともいえる予定中胚葉細胞群は,原腸壁の背側正中線上を占める予定脊索域を左右から挟むような位置にあるが,ここには,予定脊索域からの誘導をうけて,頭部から後方に向かって順次体節が形成される。体節はさらに背方の筋節と腹方の側板中胚葉に分かれる。この両者から分化してしかるべき位置に移動した予定筋原細胞群を胚から切り出し,詳しく観察するためばらばらにして培養条件下に移してやる。するとこれらの細胞は,培養皿の底である程度増殖した後に分裂をやめ,その細胞質中に収縮性タンパク質であるミオシンのメッセンジャーRNAを分化させ,みずからはミオシン合成能をもった筋原細胞となる。これらの筋原細胞は,やがて互いに融合して多核の筋管細胞を生ずるが,その内部にはアクトミオシンの微細繊維が分化し,これが細胞の長軸方向に並んで横紋を呈するようになる。自然条件では,筋管細胞はさらに長軸方向に多数集まって束を成し,大型の筋肉にまで発達する。
このようにさまざまなレベルの分化形質の発現が,種々の異なる特性に関して,しかるべき場所と順序で重ねられた結果として,単一の受精卵から生じた細胞群の中に筋肉,神経,表皮,骨,分泌腺など,多種多様な機能に特殊化した部分をそなえた多細胞生物の個体が作られるのである。
とはいえ分化の過程は,個体発生の途上でしか見られないというものではない。ヒトにおいては,成人の場合でも,赤血球は100日から120日の寿命しかないため,エリトロポエチンという糖タンパク質が腎臓から分泌され,骨髄の血球幹細胞から赤血球への分化をうながすことによって,失われていく赤血球をつねに補充している。
分化を制御する物質としては,このほかに性ホルモンなどもあげられる。脊椎動物の生殖巣は,はじめ背腸間膜の左右に間充織細胞が集まってできた生殖隆起の中に,胚体外域で分化した始原生殖細胞が入り込んで作られるが,この原基はまず性的に未分化な生殖巣を形成し,生殖輸管も雌雄両用のものが並行に作られる。しかし発生の進行にともなって内分泌器官の形成が進み,遺伝的な性にもとづく性ホルモンの分泌が開始されると,生殖巣および付属器官の性的分化が進行し,それにつれて反対性の器官が退化または消失する。
執筆者:団 まりな
植物においては,いったん分化した細胞も適当な条件に置かれれば全遺伝情報を発現して,ほぼ完全な植物体を再構成できる。スチュワードF.C.Stewardらによるニンジン根の単離細胞からの植物体再形成(1958)はあまりにも有名である。しかし,仮道管や師要素のように高度に特殊化した細胞は,接合子がもっていた全遺伝能力のごく一部しか発現しなくなる。仮道管における原形質の死や師要素における核の消失にみられるように,分化に伴って著しい形態的変化が起こる場合には,遺伝情報の発現はもはや不可能となり,分化は非可逆的なものとなる。多様な細胞型をもつ高等動物とは対照的に,維管束植物では比較的少数(おそらく12以下)の細胞型が分化しているにすぎない。また,動物胚でみられるような形態形成運動は植物ではほとんど起こらない。これは細胞壁の存在によるものであって,それぞれの細胞はそれが形成された場所で分化する。細胞はそこでほかの細胞によって構成される環境支配を受けるとともに,それ自身刺激を出して,ほかの細胞の分化過程に影響を与える。植物器官での組織分化の制御に関して,頂端分裂組織や若い葉の役割,生長調節物質の関与が注目されてきており,近年,知識が集積されつつある。
→細胞分化 →発生
執筆者:前田 靖男
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…(4)CS1とCS2がともに条件反射をひき起こすことができるとき,CS1を強化し,CS2を強化しない操作を続けると,CS1によってのみ条件反射が起こるようになる。これを分化differentiationという。(5)分化,消去によってCSとして作用を失った刺激は無効になったのではなく,これを他の有効なCSと組み合わせて与えると,この効果を抑制(制止)する作用をもつ。…
※「分化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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