改訂新版 世界大百科事典 「酸化脱水素」の意味・わかりやすい解説
酸化脱水素 (さんかだっすいそ)
oxidative dehydrogenation
炭化水素の脱水素反応を酸素(または空気)の共存下で行い,不飽和化合物を生産するプロセスをいう。たとえば,次のようなエチルベンゼンからのスチレン,n-ブテンからのブタジエンの製造などの反応がそれである。
これらの原料炭化水素の水素が水素分子として脱離するふつうの脱水素反応は大きな吸熱反応であり,したがって高温
ほど生成系に有利である。しかし高温で反応を行うと触媒上に炭素質が析出し,急速に活性が低下してしまう。したがって水蒸気などを共存させ,炭化水素の分圧を低下させて反応を行う。ただし,そうすると大きな反応器が必要になり,経済性が低下する。もし酸素を共存させ,炭化水素から水の形で水素を除去することができれば,この反応は発熱反応であるので,低温でも十分に反応が進み,平衡転化率の制約はまったくないといってよい。ただし問題は,酸素が共存すると炭化水素の一部が完全酸化反応によって水と二酸化炭素になり,目的の不飽和化合物の収率が低下することである。触媒としてモリブデン酸ビスマスなどの金属の複合酸化物が提案されているが,上記の問題が未解決であるために,工業プロセスとしての実施例はあまり多くはない。
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報