有機分子から水素H2が脱離する反応をいう。水素化反応の反対の反応で、酸化反応の一種である。代表的な脱水素反応の例を次に示す。
(1)アルコールの脱水素反応によるアルデヒド、ケトンの合成 第一アルコールから1分子の水素(H2)が脱離してアルデヒドを生成する反応、および第二アルコールから1分子の水素が脱離してケトンを生成する反応をいう。たとえば、シクロヘキサノールの蒸気を高温にして亜クロム銅などの銅触媒の上を通すとシクロヘキサノンを生成する( の(1))。同様にメタノールの蒸気を空気といっしょに銅または銀触媒の上を通すとホルムアルデヒドができる。
(2)脱水素反応による芳香族化合物の合成 シクロヘキセンやシクロヘキサンから2分子または3分子の水素が脱離してベンゼン環を生成する反応がその代表である。芳香族化ともよばれる。この反応を利用してベンゼン環(芳香環)が水素化された構造をもつ化合物からベンゼン環を合成することができる。たとえばテトラリンからナフタレンを合成できる( の(2))。脱水素による芳香族化は、石油化学でナフサの改質の際に、ナフテン(シクロパラフィン)の脱水素によるベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素を製造するのに応用されている。脱水素による芳香環の合成には硫黄(いおう)、セレンが古くから使われている。また、DDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p(パラ)-ベンゾキノン)などのキノン類もこの種の脱水素を行うときの脱水素剤である。パラジウム触媒を用いる脱水素もしばしば芳香環の形成に用いられる。以前には構造が未知の環式化合物の炭素骨格を調べるために脱水素反応法が用いられたことがあり、脱水素によって生じたベンゼン環化合物を手掛りにして元の化合物の構造を推定していた。
(3)その他の重要な脱水素反応 脱水素反応は、工業的には、ブテンからブタジエンを製造する行程、エチルベンゼンからスチレンを製造する行程にも応用されている。これらの反応は芳香族化ではない。現在では、スチレン(単量体)の工業的合成は、もっぱらエチルベンゼンを鉄触媒により脱水素する方法により行われている。
[廣田 穰]
有機化合物の分子間または分子内で水素分子が脱離する反応。水素添加の逆反応で,酸化反応の一種とみなせるが,通常,アルコールをカルボニル化合物に変換したり,アミンをシッフ塩基に変換する反応は形式的には脱水素であるが,脱水素反応とはいわない。一般にCH-CH結合をC=C結合に酸化する反応を意味することが多い。脱水素には通常,触媒(脱水素剤)が用いられる。たとえば,2-メチルシクロヘキサノンを濃硫酸H2SO4を触媒として無水酢酸(CH3CO)2O中で加熱すると,高収率でフェノール誘導体が得られる(式(1))。
また,メンテンをパラジウムの存在下,140℃に10時間加熱すると,90%の収率で対応する芳香族炭化水素が得られる(式(2))。
炭化水素の脱水素には,触媒として,パラジウムのほかに,硫黄,セレン,二酸化マンガン,キノン類が用いられている。脱水素反応の例を表に示す。
執筆者:友田 修司 工業的に有用な化合物を得る目的で,次に示すようないくつかの脱水素反応が実施されている。
(1)シクロヘキサンの脱水素反応によるベンゼンの製造。白金系触媒を用いる。
(2)エチルベンゼンの脱水素反応によるスチレンの製造。鉄-クロム酸化物系触媒による。
(3)ブテンの脱水素によるブタジエンの製造。触媒は(2)と同じ系統。
(4)アルコールの脱水素反応によるアルデヒドの製造。銅系触媒を用いる。
脱水素反応は一般的に高温を必要とするが,温度があまり高いと有機化合物が分解し,炭素化するおそれがあり,したがって適切な触媒を用いて反応温度を低くし,また減圧や不活性ガスによる希釈を行うなど,いろいろな工夫が必要とされる。
→酸化脱水素
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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