気体の水。水は374.2℃(水の臨界温度)以上では水蒸気としてしか存在できないが,それ以下の温度では水蒸気と液体の水または固体の水(氷)とが共存できる。地球表面上での水は,その90%が海水として存在し,残りの3/4が氷として,その残りが大気中の水蒸気や雲などの形で存在するといわれる。
液体の水をその体積よりも大きな容器に密閉して放置しておくと,水は表面から蒸発して水蒸気になるが,蒸発する水の量には限度があり,水蒸気の圧力がある一定の値に達すると蒸発は見かけ上とまり,水と水蒸気との間に平衡状態が成立する。このときの水蒸気を飽和水蒸気といい,この限界圧力を飽和水蒸気圧または単に蒸気圧という。飽和水蒸気圧は温度によって異なり,温度の上昇とともに急激に大きくなるが,共存する水と水蒸気の量には無関係である。表1に水蒸気の物理定数を,表2に種々の温度の水(0℃以下のときは氷)の飽和水蒸気圧を示す。
水蒸気の圧力がその温度での飽和水蒸気圧より高いと(このとき水蒸気は過飽和の状態にあるという),その一部は凝結(凝縮)して水となる。しかし,水蒸気やそれを含む空気が清浄で凝結核がないとき,すなわちその上に水蒸気が水として付着し,水滴として成長していけるような微粒子を含まないときには,凝結は起こりにくくなる。有名なロンドンの霧や大都市に発生するスモッグは,空気中の煙や塵埃(じんあい)の微粒子が凝結核となって水蒸気が凝結する現象である。また飛行機雲も,高空の清浄な空気中の過飽和の水蒸気が,飛行機のエンジン排気中の微粒子を凝結核として凝結する現象にほかならない。このような凝結が起こっているときには,空気中に微細な水滴(温度が低ければ氷片)が無数に浮遊し,本来は無色,透明な水蒸気が光の散乱によって白く見える。湯気,雲,霧,かすみ(霞),もや(靄)などと呼ばれるものはすべてこれで,これらを〈湿り蒸気〉と呼ぶこともある。これに対し,凝結が起こる温度よりもずっと高温で,水滴を含まない水蒸気は〈乾き蒸気〉または〈過熱水蒸気〉とも呼ばれる。なお,水が蒸発して水蒸気になるときは,25℃で2.44kJ/g(583cal/g),100℃で2.26kJ/g(540cal/g)の蒸発熱を吸収し,水蒸気が凝結して水になるときは同量の凝縮熱を放出する。
地球の大気では,全水蒸気量の大部分は対流圏中にあり,成層圏は非常に乾燥している。また,対流圏中の水蒸気量の約1/2は高さ2kmまでの下層に含まれている。地球の水は,蒸発によって大気へ運ばれ,大気中で凝結し,最終的には雨や雪などになって地表に落下するという循環を行っている。この水の循環は,物質としての水の循環だけでなく,蒸発のときに蒸発熱を吸収し,凝結のときに凝縮熱を放出するという地球上のエネルギー移動の一つの大きな形態となっている。また,水蒸気は近赤外域からマイクロ波域にかけて多くのエネルギーの吸収帯をもっているので,地球が宇宙空間に失う熱を吸収する温室効果の役割を果たしている。
水蒸気を高温にすると水素と酸素に解離し,多量の熱を吸収する。
H2O─→H2+1/2O2
高温になるほどこの反応は右側に進行し,反応の平衡定数が1になる温度は4800℃である。表3に種々の温度における熱解離度の値を示す。同様な分解は紫外線の照射によってもいくらか起こる。このように高温の水蒸気は化学的に活性で,強熱した鉄くずに水蒸気を通すと,水は還元されて水素を発生する。すなわち,水蒸気は酸化作用をもっている。約1000℃以上に熱した石炭やコークスに水蒸気を送ると,
H2O+C─→CO+H2
の反応が進行し,燃料としての水性ガス(CO+H2)が得られる。500℃前後では,
2H2O+C─→CO2+2H2O
の反応になる。さらに低温でも,100℃以上では硫黄と,250℃ではリンと反応する。
3S+2H2O─→2H2S+SO2
2P+3H2O─→PH3+H3PO3
これらの反応では,水蒸気は水素と酸素(またはOH基)に分かれ,それぞれ相手元素と結合するとみることができる。
また,水蒸気は多くの化学反応の触媒としての作用ももつ。たとえば酸素と水素の混合物は,完全な乾燥状態では1000℃に至っても反応しないが,痕跡の水蒸気の存在下では200℃ぐらいから反応が起こりはじめるといわれる。
→水
執筆者:菅 宏+曽根 興三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
気体状態の水をいう。水は臨界温度である374.2℃以上では、どのような圧力でも、液体あるいは固体として存在できず、つねに気体、すなわち水蒸気として存在する。それ以下の温度では、温度および圧力に従って、水蒸気、水、氷と共存することができるが、一定温度では一定体積の空間が含むことのできる水蒸気の量には限度がある。いいかえれば、水もしくは氷と共存することのできる水蒸気は、一定の水蒸気圧まで達することができる。これを飽和水蒸気圧といい、それ以上にはならない。1気圧のもとでは100℃で飽和水蒸気圧が1気圧となる。したがって気化熱さえ得られれば、水はただちに1気圧の水蒸気となるので、沸騰がおこる。同じように0.2気圧では約60℃で沸騰するし、40気圧では約250℃とならなければ沸騰しない。
水蒸気は無色透明であるが、いわゆる湯気は白く見える。これは水蒸気が空気に触れて、一部が細かい水滴となるためである。蒸気機関などでは、このようなときを湿り蒸気、それ以外を乾き蒸気といっている。
空気中に存在する水蒸気の量は湿度で表されることが多く、相対湿度が高くなって、その湿度での飽和水蒸気圧以上の水蒸気が存在すると、凝結して水滴を生ずる。ただし、きれいな空気の場合には過飽和の状態になるだけで、水滴を生じないこともある。空気中に塵(ちり)や煙などの微粒子が多いときは、それが核となって霧や雨となりやすい。
水蒸気の水分子は、ほとんどが単分子状態であると考えられるが、高温・低圧になると、一部は水素と酸素とに解離する(たとえば、0.1気圧、3500℃で53%)。このため、化学的にも活性となり、各種の物質と作用する。たとえば100℃以上では硫黄(いおう)と反応し、
2H2O+3S―→2H2S+SO2
コークスとは500℃程度では、
C+2H2O―→CO2+2H2
となり1000℃以上では、いわゆる水性ガス
C+H2O―→CO+H2
を生ずる。
[中原勝儼]
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