日本大百科全書(ニッポニカ) 「金剛針論」の意味・わかりやすい解説
金剛針論
こんごうしんろん
インドの、カースト制度否定の仏教論書。サンスクリット名はバジラスーチーVajrasūcī。アシュバゴーシャAśvaghoa(馬鳴(めみょう)。100―160)作。宋(そう)の法天の漢訳(973~981)がある。インド社会で最上位を占めるバラモン(司祭者)階級の根拠を、生まれ、身体、知識、習俗、仕事、ベーダの6種にわたって検討して、そのいずれによるのでもなく、よき行いによってのみバラモンとなることを主張し、さらには四姓(カースト)の平等を唱導する。バラモン教内部にも同様の内容を説くウパニシャッドが著され、現代インドにおいても本書の主張の意義は高く評価されている。
[川崎信定]
『中村元編・訳『仏典1 金剛の針』(『世界古典文学全集6』所収・1966・筑摩書房)』▽『高楠順次郎訳『ウパニシャット全書 8』(1923・世界文庫刊行会/復刻版・1980・東方出版)』▽『中村元編・訳『世界倫理思想叢書5 インド篇』(1958・学芸書房)』