日本大百科全書(ニッポニカ) 「錐体路症候群」の意味・わかりやすい解説
錐体路症候群
すいたいろしょうこうぐん
意識運動をつかさどる錐体路がいずれかの部位で障害されたときに出現する種々の症状をいう。中心となる症状は筋力の低下で、四肢や顔面などを動かそうとしても動きが妨げられる(随意運動麻痺(まひ))。麻痺した四肢の筋肉は固く緊張し(痙性(けいせい)麻痺)、通常、萎縮(いしゅく)はみられない。また、たとえば下肢の麻痺では深部反射が亢進(こうしん)し、病的反射が出現する。すなわち、膝蓋腱(しつがいけん)を軽くたたくと下腿(かたい)は勢いよく跳ね上がり、足の裏の外側をこすり上げるようにすると、足の母指が背屈して他の指は扇のように広がるバビンスキー現象がみられる。
錐体路は脳や脊髄(せきずい)の血管障害、腫瘍(しゅよう)、外傷など多くの病気で障害されるが、大脳皮質から脊髄に至るまでのどこで冒されるかによって種々の型の麻痺を示す。錐体路が大脳皮質で障害されると、反対側の上肢や下肢など身体の一部分が動かなくなり(単麻痺)、内包付近で冒されると、反対側の上・下肢が麻痺する(片(へん)麻痺)。脳卒中患者にしばしばみられる片麻痺の大部分は内包付近の障害によるものである。錐体路が交叉(こうさ)したのち、頸髄(けいずい)で冒されると、同側の上・下肢に、胸髄以下で障害されると、同側の下肢に麻痺が現れる。錐体路が脳幹部や頸髄上部で両側ともに障害されると、両側の上・下肢が動かなくなり(四肢麻痺)、脊髄の胸髄以下で両側とも冒されると、両側の下肢が麻痺する(対(つい)麻痺)。
[海老原進一郎]