体性運動神経系の中枢伝導路の一つ。横紋筋を制御する体性運動神経系の中枢伝導路はすべて最終的には末梢神経起始核の運動神経細胞に収斂(しゆうれん)する。したがって,この運動神経細胞には共通終末路の別称がある。体性運動中枢伝導路のうちでも大脳皮質運動野に起こり脊髄の運動神経細胞に終わる伝導路は,哺乳類で初めて現れたもので,ヒトにおいてとくに発達しているため早くから注目され,この伝導路が延髄腹側面に錐体pyramidとよばれる高まりをつくるところから,オーストリアの神経学者チュルクL.Türckによって錐体路と命名された(1851)。臨床的に錐体路損傷によって体肢の麻痺が生じるところから,錐体路は随意運動を制御すると解されている。一方,錐体路以外の体性運動中枢伝導路は錐体外路と総称され,不随意運動を制御するといわれる。ちなみに一側の延髄錐体は約100万本の神経繊維をもつ。
錐体路の起始神経細胞は大脳皮質運動野(中心前回)の第Ⅴ層にあり,その神経繊維は内包を通って中脳腹側面の大脳脚に現れ,橋核を貫通して延髄腹側面に錐体を形成する。脊髄にはいる直前に錐体交叉(こうさ)によって対側にわたり,対側の脊髄側索を下行しながら脊髄前角の運動神経細胞に接続する。錐体交叉で交叉する繊維量には個体差があり,10~25%は交叉せずにそのまま同側の脊髄前索を下行するという。交叉性の錐体路を錐体側索路,非交叉性のそれを錐体前索路とよぶ。錐体側索路が脊髄尾端まで下行するのに対し,錐体前索路がみられるのは上部胸髄までで,しかも前索を下行しながらそれぞれの高さで脊髄白前交連をわたって対側の運動神経細胞に接続して終わる。したがって一側の大脳皮質運動野は対側の脊髄運動神経細胞を支配する。脳に病変がある場合,病巣側と反対側の体肢に麻痺が起こるのはこのためである。今日では伝導路は起始と終止を併記する慣例になっているので,錐体路は皮質脊髄路と表記される。また錐体側索路,錐体前索路はそれぞれ外側皮質脊髄路,前皮質脊髄路となっているが,これはラテン学名の直訳でいささかわかりづらい。
一方,外眼筋,咀嚼(そしやく)筋,表情筋,咽頭・喉頭の小筋,舌筋などの頭部の横紋筋を支配する運動神経細胞は,中脳から延髄にかけて分布する脳神経起始核にある。つまり,外眼筋は動眼神経核,滑車神経核,外転神経核により,咀嚼筋は三叉神経運動核,表情筋は顔面神経核,咽頭・喉頭の小筋は疑核,舌筋は舌下神経核によって支配される。そして錐体路繊維の一部は大脳脚,橋,延髄錐体を下行しながらそれぞれの高さで交叉して,これら脳神経起始核に対側性に接続する。この伝導路を皮質核路とよび錐体路に包含する。
大脳皮質運動野には体部位局在性があり,下方1/3は顔面域,中央1/3は上肢域,上方1/3は下肢域とされる。つまり,顔面域からの神経繊維は脳神経起始核に,上肢域からの神経繊維は脊髄頸膨大部の運動神経細胞に,下肢域からの神経繊維は脊髄腰膨大部の運動神経細胞に接続する。ヒトの大脳皮質運動野では顔面域のうちでも口唇・舌域が,上肢域のうちでも手域がとび抜けて広い区域を占め,ヒトが手を使い言葉を話す動物であることを如実に示している。かつて大脳皮質運動野の第Ⅴ層に巨大錐体細胞を記載したのはロシアの生理解剖学者ベッツV.A.Betz(1874)である。長い間錐体路の起始細胞はこの巨大錐体細胞といわれてきたが,延髄錐体の神経繊維が100万本であるのに巨大錐体細胞は2万~5万本であることがわかって,今日では大脳皮質運動野の第Ⅴ層のすべての錐体細胞が錐体路の起始細胞とみなされている。巨大錐体細胞は下肢域に多い。
錐体路といえば古典的には皮質核路と皮質脊髄路を指す。近年,大脳皮質の運動前野と体性感覚野(中心後回)に起こる神経繊維も錐体路とまったく同じ走行をとることが明らかになった。しかし,運動前野からの神経繊維は脳幹の大細胞性網様体に終わり,体性感覚野からの神経繊維は三叉神経主知覚核・脊髄路核,後索核,脊髄後角固有核などの体性感覚中継核に終わる。前者は錐体外路系に,後者は体性感覚系に属する。
→神経系 →錐体外路
執筆者:金光 晟
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精緻(せいち)で熟練を要するような随意運動をつかさどる神経伝導路で、哺乳(ほにゅう)動物になって初めて中枢神経内にみられる。錐体路という名称は、この神経路が延髄腹側面に膨隆している錐体の内部を集中的に通過することから名づけられた。錐体路は皮質脊髄(せきずい)路と皮質核路の2系統からなっている。皮質核路はまだその走行経路が確実に把握されていないため、皮質核線維とよぶ場合もある。錐体路の始まりとなる神経細胞は左右の大脳半球にある第一次運動中枢とされる前頭葉の中心前回(ブロードマンの4野)、その前方の第二次運動中枢のある脳回(ブロードマンの6、8野)、第一次感覚中枢とされる頭頂葉の中心後回(ブロードマンの3、1、2野)などの皮質の錐体細胞と考えられている。とくに中心前回の皮質の第五層にはベッツの巨大錐体細胞(19世紀のロシアの解剖学者ベッツV. A. Betzにちなむ)があり、この巨大錐体細胞の神経線維が錐体路に参加していることは確実である。一側の錐体路の経路についてみると、まず皮質脊髄路は、皮質の錐体細胞から出た神経線維が間脳の内包の中央部を通過し、ついで中脳の大脳脚(狭義)の中央部を通り、後脳の橋(きょう)の底部(橋底部)を分散して通る。さらに延髄へと下行し、延髄の錐体に至ってふたたび集束した線維束は、延髄下端でその80~90%の線維が反対側の脊髄に移る。つまり、左右の皮質脊髄路は延髄下端で交叉(こうさ)(錐体交叉)することになる。交叉後、脊髄の反対側に出た皮質脊髄路は、脊髄側索とよぶ白質部を下行しつつ、しだいに脊髄の運動性前角細胞に終わる。この経路を外側(がいそく)皮質脊髄路とよぶ。皮質脊髄路のうち、10~20%の線維は錐体交叉をせず、そのまま同側の脊髄前索とよぶ白質を下行する。この経路を前皮質脊髄路とよぶ。この下行路も結局は反対側の前核細胞に終わる。したがって、終局的には左右の皮質脊髄路は交叉性であり、皮質脊髄路が通る内包で脳出血がおこると、傷害部と反対側の随意運動麻痺(まひ)がおこることになる。もう一方の皮質核路は皮質脊髄路とともに下行するが、おもに反対側の脳幹内にある運動性の脳神経核(運動性神経細胞の集団)に終わる。しかし、その走行はまだ不明確である。ヒトの一側の錐体を通過する錐体路の神経線維数は約100万本とされている。
[嶋井和世]
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[錐体路系の運動障害]
大脳皮質運動野にある神経細胞であるベッツ巨大錐体細胞から出た軸索は,脳幹や脊髄の運動ニューロンに達して,シナプスで連絡する。これらの軸索のうち脊髄にまで達するものは延髄錐体medullary pyramidを通るため錐体路pyramidal tractと呼ばれる。この系統は,随意運動,とくに意志の力によるすばやい巧みな運動を行う際に作動して運動を調節する。…
…大脳基底核は,これらの運動を円滑に遂行させるのに必要な身体全体の姿勢と各筋肉の筋緊張を調節する。運動野(4)錐体路と錐体外路 錐体路は大脳皮質の運動野から途中でシナプスを介さずに脊髄前角の運動ニューロンに至る経路で,延髄の腹側の錐体を通り大部分の繊維は交叉して反対側の脊髄を下行する(図5)。しばしば皮質脊髄路ともいわれるが,錐体路の中には脳幹の脳神経核の運動ニューロンに至る経路も含める。…
… 一方,この最終共通経路に対して中枢神経の四つのおもな系統の調節系が作用を及ぼして,随意運動や不随意な自動的運動が営まれている。それは,(1)大脳皮質運動野からの系統(錐体路系),(2)脳幹網様体などに由来する系統,(3)小脳系,(4)大脳基底核系であり,これらの病変によって種々の運動障害が生じる。
[錐体路系の運動障害]
大脳皮質運動野にある神経細胞であるベッツ巨大錐体細胞から出た軸索は,脳幹や脊髄の運動ニューロンに達して,シナプスで連絡する。…
…錐体細胞の繊維は,大脳脚から橋を経て延髄で錐体という大きな繊維束をつくって交差し,対側の脊髄側索の中を下行し,少なくとも一部は脊髄前角の運動神経細胞に直接シナプス結合している。この経路を錐体路または皮質脊髄路といい,随意運動のおもな出力経路となっている。 運動野を発見したのはドイツのフリッチュG.T.FritschとヒッチヒE.Hitzig(1870)で,イヌの大脳皮質の前部を電気刺激すると前肢,後肢,顔面などに限局した運動が起きることを見つけた。…
…その内部にはオリーブ核がある。延髄前索は延髄錐体と呼び,錐体路という神経路でできている。
[内部構造]
延髄内部には,いろいろの働きをする神経核(神経細胞またはニューロンの集団)と延髄を通過し,あるいは神経核に結合する神経路とがある。…
…橋の腹側部(底部)には非常に大きな神経路が通っている。第1は錐体路である。これは大脳皮質の運動の領域から下行して来て随意運動を行う経路である。…
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[脊髄下行路]
これは上位の中枢から下りてきて,脊髄の働きを制御する経路であり,その機能は経路によって異なる。(1)錐体路 これは随意運動の経路である。大脳の前頭葉にある運動野から下行してきて,脊髄の全長にある前角の運動細胞に結合する。…
…淡蒼球は視床下核と相互的神経結合をもつとともに,その遠心性繊維はレンズ核束(H2),視床束(H1)として視床腹部においてループを描いて視床腹外側核に終わる。視床腹外側核に起こる神経繊維は大脳皮質運動野に終わり,ここからは錐体路が下行する。一方,線条体からの遠心性繊維を受ける黒質網様部は視蓋に神経繊維を送り,視蓋は視蓋網様体路によって脳幹網様体と両側性に神経結合をもつ。…
…次いで赤核延髄路や赤核脊髄路を出して,不随意の運動の調節を行う。とくに赤核脊髄路は,随意運動を行う錐体路の働きを助けて,関節の屈曲を起こす屈筋に促進的に作用している。一般に動物が高等になると錐体路の発達がよくなり,赤核脊髄路は退化する傾向にある。…
…脳,脊髄の錐体路系に出血,炎症,腫瘍等による障害がある患者にみられる病的な足底の皮膚反射で,足底外側部を針のようなもので強くこすると,足の指とくに母指がゆっくりと背側に屈曲する現象をいう(指現象)。このとき,母指以外の指が扇を開くように外転する現象(開扇現象)がみられることがある。…
※「錐体路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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