日本大百科全書(ニッポニカ) 「馬乳」の意味・わかりやすい解説
馬乳
ばにゅう
ウマの乳。馬乳の組成は、水分90.8%、脂肪1.1%、タンパク質2.0%、乳糖5.8%、灰分0.3%であって、他の搾乳動物の乳と比べると乳糖含量が高い。したがって、古くからそれが発酵乳の形で飲用されてきた知恵は、乳酸菌や酵母の働きによってその一部を乳酸やアルコールに変えて消化を助けていたことになる。マルコ・ポーロの『東方見聞録』以来西欧に知られたキルギズ語のクミスがそれで、一般に馬乳酒とよばれるが、1~2%のアルコール分を含む軽い滋養飲料で、それから蒸留乳酒もつくられる。またユーラシア大陸内陸部のスキタイ、キルギス、モンゴルなどの騎馬遊牧民族がおもに飲用し、古くは紀元前5世紀のヘロドトスの『歴史』に、黒海北岸のスキタイ人がその加工をしているようすがみえるのは、発酵乳のクミスだろうといわれる。しかし現代では遊牧民の家畜もウシ、ヤギ、ヒツジなどがおもで、馬乳の利用はごくわずかになっている。
[新沼杏二]