改訂新版 世界大百科事典 「高尾船字文」の意味・わかりやすい解説
高尾船字文 (たかおせんじもん)
読本。曲亭馬琴著。1796年(寛政8)刊。馬琴の読本の初作として知られる中本型読本。歌舞伎の《伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)》(伊達騒動)の世界に,中国小説《忠義水滸伝》の翻案をないまぜた趣向で書かれている。着想は斬新で,江戸長編読本の嚆矢(こうし)となったが,奥州太守足利頼兼の遊蕩による遊女高尾斬りをめぐって,忠臣絹川谷蔵,荒獅子男之助,政岡らと,悪人典膳鬼貫(おにつら),仁木佐衛門らが葛藤するという筋立ては,まだ生硬で,伝奇小説独特の面白さを生み出すに至らず,勧善懲悪の趣旨も小説構想にとけこんでいるとはいいがたい。みるべきは馬琴が読本作者として立った第1作であったという,史的意義につきる。
執筆者:高田 衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報