黄金の盃(読み)おうごんのさかずき(その他表記)The Golden Bowl

日本大百科全書(ニッポニカ) 「黄金の盃」の意味・わかりやすい解説

黄金の盃
おうごんのさかずき
The Golden Bowl

アメリカの小説家、ヘンリー・ジェームズ最盛期最後の長編小説。1904年刊。若くして実業で成功し、財を築いて引退した初老のアメリカ人アダム・バーバーは、美術品収集家に転身し、娘マギーを連れてロンドンにくる。妻を亡くして以来、父は娘と2人暮らしで水も漏らさぬ間柄である。その地で娘はイタリア人貴族アメリゴ公爵と結婚し、一方、父は娘に心配をかけないようにとの配慮から、社交女性シャーロットと結婚する。彼は、シャーロットがアメリゴ公爵の愛人だったことを知らない。2組の夫婦ができあがってみると、父と娘は家庭的親密さを、公爵とシャーロットは社交を口実に以前の親密な関係を取り戻し、夫婦の危機が訪れる。愛と忍従の精神でこの危機を克服するマギーの意識が、ジェームズ特有の精緻(せいち)な心理分析と、イメージ豊かな詩的文体とで描かれ、アメリカ的無垢(むく)とヨーロッパ的知恵とが融合する、ジェームズの「国際物語」の極致を示している。

[岩瀬悉有]

『工藤好美訳『黄金の盃』(1983・国書刊行会)』

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