HIF-1α発現制御機構の破綻による遺伝性赤血球増加症

内科学 第10版 の解説

HIF-1α発現制御機構の破綻による遺伝性赤血球増加症(二次性赤血球増加症)

(1)HIF-1α発現制御機構の破綻による遺伝性赤血球増加症 (表14-9-20)
a.VHL遺伝子異常症
 Chuvash赤血球増加症はロシア連邦チュバシ共和国のチューバッシュ民族にみられる常染色体劣性遺伝性疾患である.HIF-1αのユビキチン化に関与するvon Hippel-Lindau(VHL)分子遺伝子変異が存在するためにプロテアソームでのHIF-1αの分解が阻害され,安定化したHIF-1αはHIF-1βと複合体を形成し,その標的遺伝子であるEPO遺伝子の転写を恒常的に促進する.そのためEPOの産生が亢進し,赤血球増加症をきたす.
b.プロリン水酸化酵素遺伝子異常症
 プロリン水酸化酵素遺伝子異常症による家族性赤血球増加症は英国から報告されている.プロリン水酸化酵素をコードする遺伝子に変異が生じたためにHIF-1αと結合できなくなり,HIF-1αの発現は維持され,EPOの産生が亢進すると考えられる.しかし血清EPO値は必ずしも増加しない.最近,保存期慢性腎不全患者に対するプロリン水酸化酵素阻害薬が開発され,内因性エリスロポエチン濃度の増加による貧血改善効果を認めている.
c.HIF-1β遺伝子異常症
 EPO遺伝子の制御にはHIF-1αが中心的な役割を担っていると考えられているが,生後のマウスではHIF-2αが重要な調節因子であることが次第に明らかにされている.HIF-2αの537番目のグリシントリプトファンに置換した新たな変異(G537W)を有する常染色体優性遺伝形式を示す赤血球増加症の1家系が報告されている.この変異は531番目のプロリン残基の近傍に存在し,PHD2に対する結合能や水酸化レベルの低下,VHLとの結合能の低下がみられる.HIF-2αはユビキチン化されずにプロテアソームでの分解を免れるため,その発現は維持され,HIF-2βと複合体を形成することによって標的遺伝子の1つであるEPO遺伝子の転写が誘導され,赤血球増加をきたすと考えられる.[小松則夫]
■文献
Ang SO, Chen H, et al: Disruption of oxygen homeostasis underlies congenital Chuvash polycythemia. Nat Genet, 32: 614-621, 2002.
Pearson TC, Messinezy M: Idiopathic erythrocytosis, diagnosis and clinical management. Pathol Biol (Paris), 49: 170-177, 2001.
Percy MJ, Furlow PW, et al: A gain-of-function mutation in the HIF2A gene in familial erythrocytosis. N Engl J Med, 358: 162-168, 2008.
Percy MJ Zhao Q, et al: A family with erythrocytosis establishes a role for prolyl hydroxylase domain protein 2 in oxygen homeostasis. Proc Natl Acad Sci USA, 103
: 654-659, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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