トリプトファン(読み)とりぷとふぁん(英語表記)tryptophan

翻訳|tryptophan

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリプトファン」の意味・わかりやすい解説

トリプトファン
とりぷとふぁん
tryptophan

芳香族α(アルファ)-アミノ酸一つ略号はTrpまたはW。ノイマイスターNeumeisterが1890年に、タンパク質のトリプシン分解物中のインドールに似た性質を示す物質にトリプトファンと名づけた。1902年ホプキンズとコールS. W. Coleにより、乳タンパク質のカゼイン膵液(すいえき)消化物から単離された。L-トリプトファンはタンパク質を構成するアミノ酸の一つとして広く存在するが、タンパク質中の量はあまり多くない。微生物ではインドール-3-グリセロリン酸に酵素トリプトファンシンテターゼが働いて合成される。動物では二つの主要な代謝経路があり、一つはキヌレニンになる経路で、キヌレニンはさらにキヌレン酸キサンツレン酸ニコチン酸TCA回路につながるアセトアセチル補酵素Aになる。もう一つは、5-ヒドロキシトリプトファンから、セロトニン(神経伝達物質、ホルモン)になる経路である。また、植物、動物でインドール酢酸(成長ホルモン)への経路がある。ホプキンズ‐コール反応(青紫色)、臭素水による赤紫色反応(古武弥四郎(こたけやしろう)の古武反応)、280ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)に極大をもつ紫外線吸収などで検出される。分子量204.22。

[降旗千恵]

栄養

栄養上、必須アミノ酸(ひっすあみのさん)の一種で、食品中に広く分布するが含量が少なく、欠乏しやすいアミノ酸である。体内でタンパク質合成に必要なだけでなく、ビタミンの一種であるニコチン酸の生成材料として重要である。トウモロコシタンパク質にはトリプトファンが含まれていないため、トウモロコシ常食地方ではトリプトファンと同時にニコチン酸が不足し、ペラグラが発生しやすい。

[宮崎基嘉]

『高分子学会バイオ・高分子研究会編『遺伝子組換えを駆使した蛋白質デザイン』(1987・学会出版センター)』『三浦謹一郎他編著『タンパク質工学――新しい物質生産の礎を築く』(1988・啓学出版)』『マックス・ペルツ著、林利彦・今村保忠訳『生命の第二の秘密――タンパク質の協同現象とアロステリック制御の分子機構』(1991・マグロウヒル出版)』『船山信次著『アルカロイド――毒と薬の宝庫』(1998・共立出版)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリプトファン」の意味・わかりやすい解説

トリプトファン
tryptophan

アミノ酸の一種。略号 Trp。1901年イギリスの生化学者フレデリック・ゴウランド・ホプキンズが分離に成功した。牛乳主成分であるカゼインパンクレアチンによる加水分解で得られる。絹糸状光沢をもつ板状晶。融点 289℃(分解)。人体に不可欠な必須アミノ酸の一つである。

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