日本大百科全書(ニッポニカ) 「OFAC規制」の意味・わかりやすい解説
OFAC規制
おーえふえーしーきせい
アメリカ政府が外交・安全保障上の目的から、制裁対象の国・団体・個人の資産凍結や制裁対象との取引禁止を求める措置。アメリカ財務省の外国資産管理室(OFAC:the Office of Foreign Assets Control)が制裁リスト(SDNリスト)を指定・公表するため、OFAC規制とよばれる。2020年12月時点で、制裁対象国・地域は北朝鮮、イラン、キューバ、シリア、ウクライナのクリミア地域、ベネズエラ、スーダン(リストにはないが、米テロ制裁国家に指定)で、軍事政権時代から制裁対象だったミャンマーは2016年に解除された。制裁対象の個人・団体は、アメリカ政府が特定したテロリスト、麻薬取引者、大量破壊兵器取引者、多国籍犯罪組織などであり、大統領選不正や抗議デモ弾圧に関与したベラルーシの閣僚、アサド政権下で猛毒サリンを使用したシリア人化学者らも対象である。制裁対象との取引を禁止されるのは、アメリカ人やアメリカ企業・金融機関だけでなく、アメリカに拠点をもつ外国企業のほか、直接アメリカと関係ない取引でも制裁対象国・地域の企業とアメリカドル建てで決済するすべての場合に適用される。このため日本企業が対象国・地域企業との輸出入や買収・合併をする場合だけでなく、取引に関係する金融機関、船会社・輸送船、航空会社・航空機、ターミナル・埠頭(ふとう)の保有者・運営者などが対象国・地域内にある場合や、取引商品の原産地、船積地、荷揚地、仕向地がある場合も広く規制対象となる。OFACは常時、資金洗浄(マネー・ロンダリング)を監視し、制裁リストに該当する取引を洗い出しており、違法行為は1件当り5万~1000万ドルの罰金が科され、連邦捜査局(FBI)や司法省と連携し、意図的な違法行為は10~30年の懲役に処せられることもある。これまでに、イランなどとの取引で2012年にイギリスのスタンダード・チャータード銀行が3億4000万ドル(約270億円)、邦銀では三菱東京UFJ銀行(現、三菱UFJ銀行)が約860万ドル(約7億1300万円)をアメリカ財務省に支払った。
[矢野 武 2021年2月17日]