TIAの症例

六訂版 家庭医学大全科 「TIAの症例」の解説

TIAの症例
(脳・神経・筋の病気)

 63歳男性。10年前から高血圧と糖尿病があり、降圧薬と経口糖尿病薬を服用していました。2月の朝、起床してしばらくすると突然、右の眼が見えにくくなり膜がかかったようになりました。

 はじめは上半分が見えにくくなって、1~2分で右眼の視野全体が見えにくくなりました。視野の異常は約3分間続き、その後回復しました。視野の回復とともに左手に持ったコップを落とし、左上肢の脱力とともに下肢の動きも悪くなりました。脱力は約10分間続き、その後回復しました。

 初めてのことで心配なため神経内科を受診しました。診察したところ血圧160/90㎜Hg、不整脈はなく、右頸動脈雑音が聴き取れました。CTでは無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)が左の脳の深部に認められましたが、症状に対応する部位に脳梗塞は認められませんでした。しかし(けい)動脈超音波検査で総頸動脈に動脈硬化病変であるプラークがあったので、アスピリン81㎎の内服治療が開始されました。その後、検査入院をして脳血管撮影を行うと右内頸動脈に70%の狭窄(きょうさく)が認められたので、頸動脈内膜剥離術(けいどうみゃくないまくはくりじゅつ)を受けることになりました(図5)。

 この患者さんは、片側の眼の動脈に血栓が詰まって一過性黒内障(いっかせいこくないしょう)という視野障害が起こっていました。その血栓は一部がはがれて脳内の中大脳動脈に移動し、反対側に運動麻痺も認められました。これらは内頸動脈系の典型的なTIA一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ))です。放っておくと重大な脳梗塞を起こしたでしょう。早期診断と治療が奏効したケースです。TIAは、たとえ軽微な症状でも高度な動脈硬化病変を伴っていることがあり、脳梗塞へ移行する警告発作として重要です。


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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