脳梗塞(読み)ノウコウソク(その他表記)Brain Infarction

デジタル大辞泉 「脳梗塞」の意味・読み・例文・類語

のう‐こうそく〔ナウカウソク〕【脳梗塞】

脳の血管が詰まり、そこから先の血行が阻害されるために脳の機能が障害された状態。脳血栓脳塞栓とがある。

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共同通信ニュース用語解説 「脳梗塞」の解説

脳梗塞

脳の血管が詰まって血流が滞り、脳細胞が部分的に死んでしまう病気。高齢者に多く、2021年には約5万8千人が死亡した。体のまひや寝たきりの代表的原因でもある。治療で早期に血流を再開させることができれば、後遺症が少なくて済む。

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精選版 日本国語大辞典 「脳梗塞」の意味・読み・例文・類語

のう‐こうそくナウカウソク【脳梗塞】

  1. 〘 名詞 〙 脳血管の狭窄、閉塞、その他の原因で脳血流が減少ないし途絶し、脳実質が壊死に陥る状態。動脈の粥状(じゅくじょう)硬化による脳血栓や、心臓から塞栓が飛び脳血管が閉塞される脳塞栓などがある。

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家庭医学館 「脳梗塞」の解説

のうこうそくのうなんかしょう【脳梗塞(脳軟化症) Brain Infarction】

◎3つの病態がある
[どんな病気か]
◎閉塞部位により症状はさまざま
[症状]
◎治療開始が早いほど好結果
[治療]

[どんな病気か]
 脳の動脈の内腔(ないくう)が途中でつまってしまい、その先へ血液が流れなくなる病気です。
 その動脈から血液の供給を受けている脳の部分が、酸素不足におちいって死んでしまい(壊死(えし))、はたらきが低下したり、失われたりします。
 この脳梗塞には、脳血栓(のうけっせん)(症(しょう))、脳塞栓(のうそくせん)(症(しょう))(心原性脳塞栓(しんげんせいのうそくせん))、出血性脳梗塞(しゅっけつせいのうこうそく)という3つの病態があります。
■脳血栓(のうけっせん)(症)
 脳の動脈の動脈硬化(どうみゃくこうか)が進むと、動脈の内腔が狭くなり、その部位に血流のよどみができます。そのため、徐々に血栓(血液のかたまり)ができて、血栓が血管の内腔をつまらせてしまう(閉塞(へいそく))のが脳血栓です。
 最近では、症状、治療方針、予後などがちがうために、つぎの2つに分けられています。
アテローム血栓性脳梗塞(けっせんせいのうこうそく)
 脳に酸素や栄養を運ぶ太い動脈(主幹動脈)の内腔に、血栓によって狭窄(きょうさく)や閉塞がおこるもの。
ラクナ梗塞(こうそく)
 脳の深部にある数百μm(マイクロメートル)(1μmは1000分の1mm)の細い血管に閉塞がおこるもの。
 脳血栓は、とくに高血圧や糖尿病(とうにょうびょう)が原因となっておこることが多く、そのほか、高脂血症(こうしけっしょう)、多血症(たけつしょう)、喫煙なども原因としてあげられます。
●症状の特徴
 よくみられる症状は、片側の顔面や舌のまひのためにろれつが回らない(構音障害(こうおんしょうがい))、同じ側の手足のまひや感覚の低下です。
 アテローム血栓性脳梗塞では、これらの症状に加え、意識障害や失語(しつご)、失行(しっこう)、失認(しつにん)、半盲(はんもう)などの高次機能障害がみられるのが特徴です。
 これに比べてラクナ梗塞は、意識障害はなく、構音障害、まひや感覚障害だけで、症状が軽いのが特徴です。
 脳血栓は、睡眠中や起床時など安静時におこることが多く、数時間から数日、ときには1か月にわたり時間を追ってゆるやかに段階的に症状が強くなってくるのが特徴です(緩徐進行型(かんじょしんこうがた))。
■脳塞栓(のうそくせん)(症)(心原性脳塞栓(しんげんせいのうそくせん))
 脳以外の部位に発生した血栓、細菌、腫瘍(しゅよう)、脂肪、空気(の泡)などが血液中を流れてきて、脳の動脈にひっかかってつまらせるのが脳塞栓です。
 ほとんどが、心臓に発生した血栓などがはがれて、脳の動脈まで流れてきてひっかかるケース(心原性)です。
 原因となる病気のなかでもっとも多いのは心房細動(しんぼうさいどう)で、ほかに心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)、洞機能不全(どうきのうふぜん)、原発性心筋症(げんぱつせいしんきんしょう)などがあります。これらの病気のために心臓のはたらきが低下すると、心臓に血栓が生じやすくなります。また、心臓内に細菌の感染病巣があると(細菌性心内膜炎(さいきんせいしんないまくえん))、細菌のかたまりがはがれて流れてくることもあります。
 がんなどでからだが弱っている人は、血液が固まったり溶けたりするシステムに異常をきたし、心臓に血栓を含んだ異物のかたまりが発生しやすくなります(非細菌性血栓性心内膜炎(ひさいきんせいけっせんせいしんないまくえん))。この異物が流れて脳動脈にひっかかり、脳塞栓をおこし、がんの存在がわかることもあります。
 そのほか、外傷や骨折などで血管が切れ、そこから入り込んだ空気(の泡)や皮下脂肪が脳の動脈にひっかかることもあります。
●症状の特徴
 脳血栓と同じ症状が現われますが、脳血栓のように時間を追って症状が徐々に強くなってくること(緩徐進行型(かんじょしんこうがた))は少なく、突然におこり、すぐに症状が現われる(突発完成型(とっぱつかんせいがた))のが特徴です。一般に、脳血栓よりも重症のことが多いものです。
■出血性脳梗塞(しゅっけつせいのうこうそく)
 脳梗塞をおこしても、つまった血栓が自然に溶けて、再び血液が流れ出すことがあります(再開通)。
 脳の血管がつまっても、すぐに血栓が溶けて流れてしまえば、現われていた症状が劇的によくなることもありますが、つまってから6時間以上たって再開通がおこると、閉塞されていた部位から先の動脈は、その間、血流が途絶えていたために障害を受け、血流が再開すると、弱った動脈壁から血液がにじみ出て脳の中に出血します。この状態を出血性脳梗塞といいます。
 心原性脳塞栓が発症して数日後に多くみられます。
●症状の特徴
 落ちついていた脳梗塞の病状が急に悪化したときは、出血性脳梗塞の可能性があります。しかし、症状が軽く、変わりがないこともあって、CT、MRI、脳血管撮影などを行なわないと診断がつきません。

[症状]
 脳に血液を供給している動脈系には、左右2本ずつの内頸動脈ないけいどうみゃく)と椎骨動脈(ついこつどうみゃく)の2系統があります。
 内頸動脈は、大脳半球に血液を供給している動脈系で、頭蓋(ずがい)内に入った後、前大脳動脈中大脳動脈2本に枝分かれします。
 左右の椎骨動脈は、合わさって1本の脳底動脈(のうていどうみゃく)となり小脳(しょうのう)や脳幹部(のうかんぶ)に血液を供給した後、枝分かれして大脳半球に入り後大脳動脈となります。
 脳梗塞の症状は、これらの動脈系のどこがつまったかによって、さまざまにちがってきます。
●内頸動脈閉塞(ないけいどうみゃくへいそく)の症状
 内頸動脈のうち、脳梗塞がおこりやすいのは中大脳動脈で、前大脳動脈だけに梗塞がおこるのは比較的まれです。内頸動脈が閉塞したときは、
①つまった部位はどこか
②閉塞が急激におこったか、徐々におこったか
③障害されていない血管から、つまって血液の流れが悪くなった部位に血液を補給するルート(側副血行路(そくふくけっこうろ))がどの程度発達しているか
により、症状がほとんど現われない場合から重篤(じゅうとく)な場合までさまざまです。
 中大脳動脈のうち、脳の深部へ血液を供給している細い動脈(穿通枝(せんつうし))がつまったときは、つまった側とは反対側の顔面や手足のまひ、触覚や温痛覚が低下したり、過敏になったりする感覚障害がおこります。
 脳の表面(皮質(ひしつ))に血液を供給している動脈(皮質枝(ひしつし))がおもにつまったときは、まひや感覚障害が出現しますが比較的軽く、障害された側の大脳半球やその部位によって、さまざまな高次機能の異常が現われます。
 ことばがでなかったり、会話の理解ができない失語症(しつごしょう)、やろうとしている動作や行為もわかっているのに行なうことができない失行(しっこう)、日常使っているものやよく知っている人の顔がわからなかったり、つまった側と反対側の空間にあるものをすべて無視する失認(しつにん)、字が読めない失読(しつどく)、字が書けない失書(しっしょ)、障害された側とは反対側の視野が見えなくなる視野障害(同名性半盲(どうめいせいはんもう))などの症状が現われることがあります。
 中大脳動脈の根もとがつまったときは、穿通枝も皮質枝もともに障害を受けることが多く、意識障害が強く出現して、脳が腫(は)れ上がり(脳浮腫(のうふしゅ))、死亡したり、後遺症が強く残ったりする場合もあります。
 細い脳血管である穿通枝の梗塞は、ラクナ梗塞と呼ばれ、欧米人に比べて日本人に多く、予後は良好です。
 一方、皮質枝にもおよぶ太い脳血管におこった脳血栓はアテローム血栓性脳梗塞といい、人種や食事のちがいからか欧米に多く、予後はさまざまです。心原性脳塞栓は、皮質枝の梗塞が多く、脳血栓よりも重症のケースが少なくありません。
●椎骨脳底動脈系閉塞(ついこつのうていどうみゃくけいへいそく)の症状
 めまい、吐(は)き気(け)、嘔吐(おうと)、頭痛、ろれつが回らない、飲み込みにくいなどの症状のほか、手足のまひ、力は入るのに手足が思いどおりに動かず、立ち上がれない失調症(しっちょうしょう)、動かそうと思わないのに手足がひとりでに動いてしまう不随意運動(ふずいいうんどう)、口のまわりや手の先、半身の感覚が鈍くなったり過敏になる感覚障害、片側の視野が見えなくなる半盲などがおこります。
 脳底動脈の広い範囲に梗塞がおこると(脳底動脈血栓症(のうていどうみゃくけっせんしょう))、生命中枢のある脳幹部が障害され、意識障害に加えて両方の手足のまひがおこります(四肢(しし)まひ)。その後、呼吸状態が悪くなり、重篤な病状になります。

[治療]
 症状に応じて、脳卒中一般の治療(脳卒中(脳血管発作)とはの「脳卒中の治療」)を行ないますが、血栓を溶かす血栓溶解薬(けっせんようかいやく)、血液を固まりにくくする抗凝固薬(こうぎょうこやく)や抗血小板薬(こうけっしょうばんやく)、脳のむくみをとり、血液の流れや脳の代謝(たいしゃ)を改善する脳圧降下剤(のうあつこうかざい)、脳循環代謝改善薬(のうじゅんかんたいしゃかいぜんやく)などが使用されます。
 脳梗塞がおこった後、治療開始が早ければ早いほどよくなる確率が高いため、できるだけ早く、専門病院を受診することがたいせつです。

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改訂新版 世界大百科事典 「脳梗塞」の意味・わかりやすい解説

脳梗塞 (のうこうそく)
cerebral infraction

脳を栄養する動脈の狭窄や閉塞のために,その動脈によって血液を供給されていた脳組織が壊死におちいった状態で,脳軟化症ともいう。脳梗塞は次の四つに大きく分けられる。すなわち,動脈硬化であるアテローム硬化を伴う脳血栓症脳塞栓症,他の原因による脳梗塞,原因不明の脳梗塞である。

(1)アテローム硬化を伴う脳血栓症 頸動脈や脳動脈にアテローム硬化をきたし,その部に凝血塊(血栓)を生じるもので,俗に脳血栓ともいわれる。硬化は動脈の分岐部,屈曲部などにおこりやすい。血栓の形成には,血液の粘度,凝固能,血小板機能などの血液の性状,動脈硬化,内膜損傷などの血管の性状や血流速度の遅延,渦流などの血流の変化が関係している。高齢者に多く,症状は徐々に発現し,段階的に進んでいくことが多い。また前駆症状として一過性脳虚血発作を伴うことも多い。発作は睡眠中あるいは起床時におこりやすく,半身麻痺,失語症などの巣症状に比べて意識障害は比較的軽い。糖尿病や高血圧を合併していることが多い。

(2)脳塞栓症 脳以外の部位にできた血栓がはがれ,それが血流により移動して脳の動脈を詰まらせるためにおこる。塞栓は心臓由来のものが最も多い。リウマチ性心疾患,弁膜症,心内膜炎,不整脈,心筋梗塞などで心臓の壁に生じた血栓がはがれて塞栓となる。また心臓手術に際しておこることもある。心臓由来のもの以外に,大動脈弓部や頸動脈などにできた血栓,肺静脈系の血栓,心房中隔欠損がある場合の静脈系の血栓などが塞栓となることもある。血栓以外に空気塞栓,骨折時の脂肪塞栓,異物塞栓,腫瘍塞栓なども知られている。発症は急激な発作として現れ,発作は数秒から数分間続く。前駆症状はないことが多い。意識障害は比較的軽度である。年齢や高血圧とは関係ない。

(3)その他の原因による脳梗塞 以上のほか,脳静脈血栓,全身性低血圧,動脈撮影の合併症,動脈炎,血液疾患,膠原(こうげん)病などによる脳梗塞がある。
梗塞

どの血管が閉塞したかにより,さまざまの症状がみられる。脳は内頸動脈と椎骨脳底動脈とにより栄養されているが,内頸動脈系の閉塞の場合,錐体路障害による半身運動麻痺片麻痺)がみられることが多い。錐体路は延髄以下では交差して反対側へいくので,麻痺は脳の病変部位とは反対側にみられる。麻痺の程度は軽いものから完全麻痺をきたすものまである。麻痺と同側の半身知覚障害を伴うことも多い。半盲をきたすこともある。また痙攣(けいれん)は発作の初期からみられることがあり(初期発作),発作後数週してからおこることもある(後期発作)。意識障害もおこりうるが,軽度の障害のみのことが多い。知能障害もみられる。多発性に小さな梗塞が散在し認知症を呈する場合がある。そのほか障害される部位によっては,失語や失行(四肢,顔,舌などに運動機能の障害がなく,なすべき動作はわかっているのに目的にかなった動作ができないもの),失認(知覚,感覚の障害はないが対象を認知できないもの)などの症状を呈する。失語は患者の優位大脳半球(右利きの人の場合は左側)の障害によって生じ,感覚性失語(言語理解が主として障害されるもの),運動性失語(言語理解は保たれているが自分の言語を表出する機能が主として障害されるもの)などに分けられる。また優位半球の頭頂葉の障害によりゲルストマン症候群Gerstmann's syndrome(手指失認,左右失認,計算障害,書字障害)が生ずる。そのほか左右の半球を連結している脳梁が障害されると,離断症候群という特有の病像を呈する。

 一方,椎骨脳底動脈系の閉塞では,視力障害,小脳性の運動失調,不随意運動やさまざまな脳神経障害を生ずる。とくに脳幹部の障害では反対側の運動機能を支配する錐体路と同側へ分布する脳神経とが同時に障害されるため,片麻痺のある側と反対側に脳神経麻痺を示す交代性片麻痺という特異な症状を呈することがある。なかでもウェーバー症候群Weber's syndrome(上交代性片麻痺,病変側の眼球運動障害と反対側の半身麻痺)やミヤール=ギュブレル症候群Millard-Gubler's syndrome(下交代性片麻痺,病変側の顔面神経麻痺と反対側の上下肢麻痺)は有名である。また,延髄外側部の障害ではワレンベルグ症候群Wallenberg's syndromeといわれる多彩な症状を呈する。

診断にあたってはコンピューター断層撮影がきわめて有用であり,梗塞におちいった領域が低吸収域として認められる。また脳血管撮影を行うことにより,血管の閉塞部位や硬化の程度などをみることができる。

生命に関する予後は,病巣の大きなものや意識障害の程度の強いものでは悪いが,脳出血に比べて急性期の死亡率は低い。一方,機能の回復は障害された領域によってさまざまである。

患者は原則としてできるだけ早く入院させるべきである。発作直後は安静を保ち,頭を低くする。嘔吐のある場合は麻痺側を上にして横臥させる。とくに呼吸気道の確保に気をつける。初期には降圧療法は行わない。脳浮腫に対してはグリセリンや副腎皮質ステロイド剤を用いる。皮膚,口腔,眼,陰部などの清潔を保つようにし,体位を変えて床ずれを予防する。気道の感染や尿路感染をおこしやすいので十分に注意し,抗生物質により治療する。症状が進行している場合には血栓溶解薬を使用することがある。症例によっては抗凝血薬や脳血管拡張剤なども用いられる。内頸動脈や中大脳動脈の狭窄については,外科的な治療法も行われる。リハビリテーションは関節拘縮の予防や運動機能の回復などのために精力的に行う必要がある。失語症に対しては言語訓練なども必要となる。また脳血栓症で合併する高血圧や糖尿病,および脳塞栓症の原因となる心臓疾患に対する治療を十分に行わなければならない。
脳卒中
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳梗塞」の意味・わかりやすい解説

脳梗塞
のうこうそく

脳血管の閉塞により血流が遮断されるために脳組織が壊死(えし)に陥った状態をいい、脳軟化ともよばれる。脳出血とともに脳卒中の二大疾患の一つである。病因的に脳血栓と脳塞栓に分けられる。脳血栓は高齢者に多く、脳動脈の血管壁の動脈硬化性病変によって血管内腔(ないくう)が狭くなり、ついに閉塞するという経過をたどる。脳塞栓は心疾患、とくに心房細動があり、心臓内の血塊が脳に運ばれて血管を閉塞する。

[荒木五郎]

症状

脳梗塞では閉塞する血管によって次のように症状が異なる。

(1)中大脳動脈閉塞症候群 下肢より上肢に強い片麻痺(へんまひ)、半盲症(左あるいは右半分の視野欠損)、失語症(ことばが出ず、ことばがわからない)、失行や失認(着物をあべこべに着たり、便所を間違えたり、片側の手足を無視して使わなかったりする)がみられることがある。

(2)内頸(ないけい)動脈閉塞症候群 中大脳動脈閉塞と同様で、両者の鑑別は困難なことが多い。

(3)前大脳動脈閉塞症候群 上肢より下肢に強い片麻痺、精神症状(物忘れ、計算力低下など)、排尿障害などがみられる。

(4)後大脳動脈閉塞症候群 半盲症、軽い片麻痺がくることもある。閉塞が優位半球(普通は左半球)であれば、字は書けるが字が読めないという失書を伴わない失読という症状が現れることが多い。

(5)椎骨(ついこつ)脳底動脈閉塞症候群 脳底動脈閉塞は意識障害が高度で、脳出血との区別がむずかしい。椎骨動脈や脳底動脈の分枝に閉塞があると、嚥下(えんげ)障害、めまい、眼振(他覚的に容易に認められる眼球の律動的運動)などの症状や平衡障害が出現する。

(6)多発性小梗塞 片麻痺や知覚障害があるが、半盲症や失語症などはない。また片麻痺だけ、あるいは知覚障害だけの場合もある。さらに言語障害(舌のもつれ)と手の不器用だけが症状としてみられる場合もある。なお、多発性の梗塞で認知症を伴うものをとくに多発性梗塞痴呆(ちほう)とよんでいる。

[荒木五郎]

予後

脳梗塞は脳出血のように病気そのものが死因となることは少なく、合併症による死亡が多いので、看護にはこれに十分留意する必要がある。また麻痺の予後についてみると、初めからすこしでも動くようであれば、3か月後あるいは6か月後には杖(つえ)歩行、独歩が可能となる。しかし、完全麻痺の場合は、杖歩行や独歩ができるのが半分以下となる。

[荒木五郎]

治療

血圧を調節するための降圧剤は、急性期には原則として使用しない。脳浮腫(ふしゅ)の治療としては副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の注射、マニトールやグリセロールの点滴が奏効し、内科治療の範囲も広くなってきた。また、血栓を溶解する目的でウロキナーゼを投与する線溶(線維素溶解)療法は、脳塞栓の重症例では再開通による脳浮腫の助長、出血性梗塞の誘発のおそれがあるので禁忌とされている。脳代謝賦活剤は発病当初より使われ、脳血管拡張剤は軽症例を除き、2~3週後に投与する。合併症である肺炎、尿路感染症、床ずれの治療には、2時間ごとの体位変換、早期発見、広域スペクトルの抗生物質を投与する。

[荒木五郎]

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百科事典マイペディア 「脳梗塞」の意味・わかりやすい解説

脳梗塞【のうこうそく】

脳動脈が閉塞(へいそく)され,その支配下の脳組織が壊死(えし)に陥って起こる疾患。脳軟化症ともいう。閉塞の原因は脳血栓(けっせん),脳塞栓(そくせん)など。冒される部位により症状は異なるが,広範に冒されると意識障害,手足の麻痺(まひ),失禁などを呈する。老年に多く,手足のしびれ感,舌のもつれ,記銘力の低下など脳動脈硬化の症状が先行することが多い。抗血液凝固薬,脳血管拡張薬,脳組織代謝促進薬などにより治療する。運動麻痺にはマッサージ,電気療法などを行う。
→関連項目SPECT専門人間ドック動脈硬化突然死脳卒中半身不随ホルモン補充療法マラリアもやもや病

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生活習慣病用語辞典 「脳梗塞」の解説

脳梗塞

脳の動脈に血栓や凝固塊 (動脈硬化のかすのようなもの) などが詰まって血流を止めてしまうため、脳の細胞が壊死する病気です。動脈硬化を起こして血管壁が硬くもろくなると、血液の通路が狭くなり、血管が詰まりやすくなります。脳卒中の 1 つで、脳塞栓と脳血栓の 2 つに分類されます。

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栄養・生化学辞典 「脳梗塞」の解説

脳梗塞

 脳血栓,脳塞栓によって動脈が完全に閉塞し,血液が供給されなくなったときに起こる症状.

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世界大百科事典(旧版)内の脳梗塞の言及

【一過性脳虚血発作】より

片麻痺(左右どちらか半身の麻痺),失語,視力障害など,脳の病変によって起こると思われる症状が突然出るが,すぐによくなり,24時間以内にまったく元の状態にもどる発作をいう。この発作はほとんどの場合,ごく小さな脳梗塞(のうこうそく)によって起こると考えられている。このような梗塞は,内頸動脈や椎骨‐脳底動脈などに起きた動脈硬化の強い部分に血小板が付着し,しだいに大きくなって白色血栓となり,これがはがれて血流にのって末梢の脳動脈に達し,これを閉鎖してしまう血栓栓塞が多いとされている。…

【脳卒中】より

…また,中風(ちゆうふう∥ちゆうぶう)または中気という言葉が脳卒中と同義に用いられることもあるが,一般には,卒中発作後,後遺症として半身不随(片麻痺)などの運動麻痺を残した状態をいうことが多い。
[原因疾患]
 (1)脳出血(脳溢血(のういつけつ)),(2)脳梗塞(のうこうそく),(3)くも膜下出血,(4)高血圧性脳症などがある。脳出血は脳における急激な出血をいい,脳梗塞は脳動脈の狭窄や閉塞のために,その動脈に栄養される領域の脳組織が壊死におちいったものである。…

【片麻痺】より

…したがって,大脳および顔面神経核の存在する橋(きよう)より上位の脳幹で錐体路が障害されると,顔面を含む反対側の半身麻痺を生じ,それ以下で頸髄より上の病変では,顔面を含まない反対側上下肢および体幹の半身麻痺を生ずることになる。 最も多いものは,脳出血や脳梗塞のために生じた大脳半球の内包の障害による反対側の半身麻痺である。内包には錐体路の繊維が集中しており,また出血や梗塞の好発部位であるためである。…

※「脳梗塞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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