インドの神秘的身体論において,脊椎に沿っていくつかある,生命エネルギーともいうべきものの集積所。文字どおりには〈輪〉を意味する。ハタヨーガやタントラ文献によれば,ふつうチャクラは六つあるという。下の方から列挙すると,まず会陰のあたりに,四弁よりなる蓮華の形をしたムーラーダーラ・チャクラmūlādhāra-cakraが,へそのあたりには,六弁の蓮華の形をしたスバーディシュターナ・チャクラsvādhiṣṭhāna-cakraが,そのすぐ上には,十弁の蓮華の形をしたマニプール・チャクラmaṇipūr-cakraが,心臓の近くには,十二弁の蓮華の形をしたアナーハタ・チャクラanāhata-cakraが,喉のあたりには,十六弁の蓮華の形をしたビシュッダ・チャクラviśuddha-cakraが,眉間のあたりには,二弁の蓮華の形をしたアージュニャー・チャクラajñā-cakraがある。また,ふつうは,これに加えて二つのチャクラを数える。一つは,ムーラーダーラ・チャクラの直下にあり,三角形をしたアグニ・チャクラagni-cakraで,ここには,シバ神妃と同一視されるシャクティśakti(性力)が,三重半のとぐろを巻いたクンダリニーkuṇḍalinīという名の蛇の形をして住まっているという。このクンダリニーは,ある意味では,生命の本体(ジーバートマンjīvātman)でもある。もう一つは,頭頂にある,千弁の蓮華の形をしたサハスラーラ・チャクラsahasrāra-cakraで,シバ神の居処であるという。人がヨーガを行い,息(=生命エネルギー)を止めると,体内に生命エネルギーが充満し,これがクンダリニーを目覚めさせ,脊椎を貫通しているスシュムナーsuṣmnā管の中を,チャクラを中継点としながら上昇させることができる。クンダリニーがついにサハスラーラ・チャクラに至ると,これは宇宙の根本原理であるシバ神と合一したことになる。このとき人は,宇宙を主宰する力をそなえ,解脱を達成するという。
執筆者:宮元 啓一
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…もう一つは,独特の人体生理学を利用するものである。宇宙の生命力である気息は,人体においては脈管(ナーディー)の中を流れ,また,チャクラ(輪)と呼ばれる一種の器官の中に蓄積されている。脊椎の最下部,会陰のあたりにあるチャクラは,四弁の蓮華の形をしており,ムーラーダーラと呼ばれる。…
…ヒンドゥー教の一宗派ナート派が伝えてきたヨーガで,13世紀ころの北インドの聖者ゴーラクナート(ゴーラクシャナータ)が開祖であると伝えられる。シバ派のタントリズム(タントラ)の教義にのっとり,気息という一種の生命エネルギーを利用し,クンダリニーという蛇の形をとって脊椎の最下部に潜んでいる性力(シャクティ)を覚醒させ,エネルギーの溜り場であるいくつかのチャクラを経由させながら脊椎沿いに上昇させることを目ざす。このため,このヨーガは〈クンダリニー・ヨーガ〉と呼ばれることもある。…
※「チャクラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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