改訂新版 世界大百科事典 「ハタヨーガ」の意味・わかりやすい解説
ハタ・ヨーガ
haṭha-yoga
ヒンドゥー教の一宗派ナート派が伝えてきたヨーガで,13世紀ころの北インドの聖者ゴーラクナート(ゴーラクシャナータ)が開祖であると伝えられる。シバ派のタントリズム(タントラ)の教義にのっとり,気息という一種の生命エネルギーを利用し,クンダリニーという蛇の形をとって脊椎の最下部に潜んでいる性力(シャクティ)を覚醒させ,エネルギーの溜り場であるいくつかのチャクラを経由させながら脊椎沿いに上昇させることを目ざす。このため,このヨーガは〈クンダリニー・ヨーガ〉と呼ばれることもある。このヨーガでは,身体は小宇宙,つまり宇宙と相即に対応するものであるとみなされる。したがって,身体を生理的に操作するということは,即,宇宙を操作することを意味する。そこでこのヨーガでは,さまざまな生理的な操作を容易にするために,さまざまな身体的な姿勢(坐法,アーサナāsana)が活用される。常人には無理な姿勢も多く,そこで,〈ハタ(強制)〉ヨーガという呼称が用いられたのである。今日ヨーガとして行われているものは,ほとんどこの流れを汲むヨーガである。ハタ・ヨーガの教義と実習の古典的な体系は,スバートマーラーマ作《ハタ・ヨーガ・プラディーピカーHaṭhayogapradīpikā》(16世紀ころ)に簡潔に示されている。
→ヨーガ
執筆者:宮元 啓一
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