隠居制(読み)いんきょせい

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「隠居制」の意味・わかりやすい解説

隠居制
いんきょせい

日本各地の村落において広く行われてきた慣行で,家族内部における生活単位の分離をいう。親夫婦と子供夫婦が別々の生活単位をつくって生活する場合が多く,家族内部に複数の世帯が生れる。これを隠居複世帯制ともいい,これに基づく家族を隠居制家族と呼ぶ。隠居制家族は,家族内部に独立した複数の生活単位を設定しない単世帯制家族とともに,日本の家族の典型を成してきた。隠居制家族における生活の分離は,食事,住居,財産の使用,労働,祖先祭祀など家族生活の広範な分野にわたり,なかでも別居・別財・別竈 (かまど) に示される住居,財産,食事の分離が重要であった。こうした生活の分離によって,日常的には親子関係よりも夫婦関係を重視するのが特徴。その分布は福島県を北限に,これより西南部の地域に濃厚で,特に盛んに行われているのは茨城県,伊豆諸島,山梨県,愛知県,滋賀県,紀伊半島,瀬戸内海地方,および四国・九州の各地である。吐 噶喇 (トカラ) 列島を南限として,奄美・沖縄には存在しない。 (→拡大家族 )  

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