日本大百科全書(ニッポニカ) 「差動歯車装置」の意味・わかりやすい解説
差動歯車装置
さどうはぐるまそうち
differential gear mechanism
歯車伝動装置の一種。単に差動歯車ともいう。遊星歯車装置において、太陽歯車軸、遊星歯車軸、およびその二つを結ぶリンクのうち、いずれか二つに運動を与えると、他の一つは両者の運動を同時に受けて回転する。このような装置を差動歯車装置という。互いにかみ合う二つの歯車A、Bの軸を腕Cで連結し、歯車Aは動かさずに腕CをA歯車を中心にして回転させると、歯車Bは自転しながら歯車Aの周りを公転する( )。これが遊星歯車装置で、歯車Aを太陽歯車、歯車Bを遊星歯車という。
[中山秀太郎]
原理
歯車Aを固定し、歯車Bを歯車Aの周りに時計と反対方向に1回転したとき、歯車Bは何回転するであろうか。反時計方向をプラス(+)とし、時計方向をマイナス(-)として考えてみよう。腕Cが反時計方向に1回転したときには+1と書く。最初にこの装置全体を固定し、歯車Aの中心O1の周りに全体を反時計方向に1回転する。すなわちA、B、Cはすべて+1である。次に腕Cを固定し、歯車Aを時計方向に1回転し初めの状態に戻す。このときAは-1である。Aが1回転すると、Aにかみ合っている歯車Bは中心O2の周りに回転する。歯車Aの歯数をZA、歯車Bの歯数をZBとすると、Aの1回転によりBはZA/ZB回転する。そして歯車Bの回転方向は反時計方向である。すなわち+ZA/ZBとなる。全体を固定したときと、腕を固定したときのそれぞれの歯車の回転を加え合わせれば、歯車Bの回転数が求められる。
歯車Aを固定して考えたが、Aにも回転を与えたとすると、歯車Bは歯車Aと腕Cの二つの影響を受ける。このようにしたものが差動歯車である。このときの各歯車の回転数も以上と同じ方法で求めることができる。歯車A、B、腕Cの回転数をそれぞれNA、NB、NCとし、歯車A、Bの歯数をそれぞれZA、ZBとしたとき、回転数の計算は
の表に示すとおりである。[中山秀太郎]
応用例
差動歯車装置の応用例は、自動車に使われているディファレンシャル・ギヤである。その作動原理を説明しよう(ベベルギヤ(傘(かさ)歯車)Bが取り付けられている。Bの軸は平歯車Dの軸に垂直である。このBに別のベベルギヤA、Cがかみ合っている装置を考えてみる。なおA、Cの軸は平歯車Dの軸には固定されていない。
)。平歯車Dの中にこの装置で平歯車Dを静止させておいてベベルギヤAを回転させると、これにかみ合っているベベルギヤBが回転し、さらにBとかみ合っているCも回転する。このときAの回転数とCの回転数とは同じであるが、回転方向は逆になる。Aを同一方向に一定回転させておいて平歯車Dを回転させると、ベベルギヤBは自転しながら歯車Dの中心の周りに回転するので、歯車Cを左右どちらの方向にもいろいろな速さで回転させられる。また静止させることもできる。この平歯車Dをベベルギヤとしたものが、自動車に使用されている差動歯車装置である。
エンジンの回転はベベルギヤEによりDに伝わる。Dの軸に垂直に2個のベベルギヤB、B′があり、B、B′によりベベルギヤA、Cに回転が伝わる。A、Cの軸に車輪がついている。直進のときはDの回転はベベルギヤB、B′を介してA、Cに伝わる。このときB、B′は自分の軸の周りには回転しない。自動車が曲がるときにはベベルギヤB、B′は公転と自転をし、外側の車輪についている軸Aを速く、内側の車輪についている軸Cを遅く回転させるので、自動車の車輪はスリップすることなくカーブを曲がることができる。
[中山秀太郎]