遊星歯車装置(読み)ゆうせいはぐるまそうち(英語表記)epicyclic gear
planetary gear

改訂新版 世界大百科事典 「遊星歯車装置」の意味・わかりやすい解説

遊星歯車装置 (ゆうせいはぐるまそうち)
epicyclic gear
planetary gear

プラネタリーギヤともいう。固定中心のまわりに回転するか,あるいは固定された歯車(これらを太陽歯車という)と,そのまわりを公転する中心上で回転する歯車(遊星歯車)からなる歯車列。おもに高速回転の減速装置として用いられる。図に示した例は内部の中心部にとりつけられている歯車,中間に入っている数個の歯車(図では3個)および外側を囲んでいる外環よりなり,中心部にある歯車が太陽歯車,中間に挿入されている数個の歯車が遊星歯車である(遊星歯車の個数は4個,5個の場合もある)。

 図の例では外環の歯車(内歯車)が固定されており,太陽歯車が駆動され,遊星歯車を支えている保持枠が従動体となっている。入力軸を太陽歯車に連結し,出力軸を保持枠につなげば,入力軸と出力軸を同一直線上におくことができる。遊星歯車装置に用いられているモジュールはすべて等しく,歯数と歯車の直径ピッチ円直径)は比例する。いま太陽歯車の歯数をZs,その直径をds,外環の内歯車の歯数をZr,その直径をdrとすると,減速比iは,

 i=(ZsZr)/Zs,または

 i=(dsdr)/ds

で与えられる。したがって太陽歯車の直径をできるだけ小さくし,外環の内歯車をできるだけ大きくすることにより,減速比を大きくすることができる。実際に用いられている遊星歯車装置では減速比i=10程度のものも珍しくない。

 遊星歯車装置は,機構は複雑になるが,効率が高く,また不平衡力のつり合せも容易で,運転性能も良好であるなどの特徴をもち,最近は大型の自動車トラック)などにも用いられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「遊星歯車装置」の意味・わかりやすい解説

遊星歯車装置
ゆうせいはぐるまそうち

太陽歯車を中心として、複数の遊星歯車が自転しながら、公転する機構により、減速ならびに増速する装置。装置は、太陽歯車sun gear、遊星歯車planetary gearのほかに、遊星歯車の公転運動の出力軸となる遊星キャリアpalanetary carrierと内歯車outer gearから構成されている。太陽歯車、遊星キャリア、内歯車の内、一つを固定し、一つを入力軸に、一つを出力軸にする。どの要素を入・出力、固定にするかにより、一つの装置で、複数の速比や回転方向の切替えが可能である()。

 特徴としては、少ない段数で、大きな減速比が得られ、コンパクトな変速装置を実現できること、大きなトルクが伝達できること、入力軸と出力軸を同軸上に配置できること、複数の遊星歯車に負荷を分散できるので、摩耗欠損が起こりにくいことなどがあげられる。

 応用例としては、乗用車のトルクコンバータ式の自動変速装置の補助変速装置や、ハイブリッドエンジンで、エンジン動力を車輪と発電機に分配するのに用いられている。このほか、自転車の後輪のハブ内部に組み込まれる内装形変速装置、風力発電用風車の減速機、各種産業機械の減速機など、広範な分野で活躍している。

[清水伸二]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遊星歯車装置」の意味・わかりやすい解説

遊星歯車装置
ゆうせいはぐるまそうち
planetary gear

噛み合っている1組の歯車において,2つの歯車がそれぞれ回転すると同時に,一方の歯車が他方の歯車軸を中心にして公転するようになっている歯車装置をいう。公転する歯車を遊星歯車 planet gear,中心の歯車を太陽歯車 sun gearと呼ぶ。この装置を利用すると,同じ変速条件では小型軽量化がはかられ,入力軸と出力軸を一直線にできる特長をもつ。したがって,各種機械の増速および減速装置,その他に広く用いられる。 (→差動歯車装置 , 不思議歯車機構 )

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百科事典マイペディア 「遊星歯車装置」の意味・わかりやすい解説

遊星歯車装置【ゆうせいはぐるまそうち】

プラネタリーギヤとも。固定中心のまわりを回転するか,または固定された歯車(太陽歯車)と,そのまわりを公転する中心上で回転する歯車(遊星歯車)とからなる歯車列。外歯車を使うもののほか,内歯車やかさ歯車を用いるものなど種々あり,高速回転の減速装置などに利用される。
→関連項目減速装置

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