日本大百科全書(ニッポニカ) 「アサディー」の意味・わかりやすい解説
アサディー
あさでぃー
Asadī ūsī
(1020ころ―1072ころ)
ペルシアの詩人。西欧の東洋学者はアブー・ナスル・アフマドとアリー・ビン・アフマドの親子の雅号であると主張したが、イランの学界では一人説が定説である。イラン東部のトゥースに生まれたが、のちに西部のアゼルバイジャンに移住し、地方君主に仕えた。文学史上三つの大きな業績を残したことで名高い。まず第一に、夜と昼、天と地、魂と肉体など対立するものを主題に作詩し、「対立詩」の開拓者として新分野を開いた。第二に、1066年にイランの神話伝説に基づき、ガルシャースプ王の生涯と武勇を主題に約1万句からなる長編英雄叙事詩『ガルシャースプの書』を作詩して保護者に捧(ささ)げた。第三の業績は、ペルシア語最古の『ペルシア語辞典』の編集である。東部の文学語を西部の学者、詩人に知らせるのを目的としたこの辞典には70人以上の詩人の作品が引用され、ペルシア語史、文学史研究の貴重な資料として定評が高い。
[黒柳恒男]