改訂新版 世界大百科事典 「アタナシオス信条」の意味・わかりやすい解説
アタナシオス信条 (アタナシオスしんじょう)
西方教会で広く用いられる信条。原文はラテン語。冒頭の〈救いを望む者はだれも〉から〈クイクムクエ・ウルトQuicumque vult信条〉とも呼ばれる。9世紀以来,アリウス派と闘ったアレクサンドリア主教アタナシオスの名を冠して呼ばれ,アタナシオスの手になるものと信じられてきた。しかし今日では5世紀前半までにガリア南部で成立したとの見解が有力になっている。全体は40余りの簡潔な文から成り,〈ニカエア信条〉〈使徒信条〉とは形式を異にする。内容としては三位一体論とキリストの受肉に関する教えに重点が置かれている。とくに三位一体論は〈カルケドン信条〉(451)の立場をさらに明確に規定したものであり,その点からもこの信条がアタナシオスの時代にさかのぼらないことは確かである。東方正教会では,聖霊の発出に関する〈そして子から(フィリオクエfilioque)〉を削除して17世紀以降の典礼書に用いられてはいるものの,一般に正統な信条と見なさない傾向にある。
執筆者:森安 達也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報