改訂新版 世界大百科事典 「アツリア」の意味・わかりやすい解説
アツリア
Aturia
頭足綱オウムガイ目の1属で,第三紀に広く分布した化石軟体動物。殻は密に巻いた平面らせんで,円盤状を呈する。表面はほぼ平滑。縫合線には腹部の大きく幅広い山と側面部の大きな半円形の山とがあって,側面の鋭角状の谷で分かれている。へそ周縁には幅広い谷と山があり,背縁の深い谷で左右の山が分かれている。体管は中部あるいは背側にある。
かつて日本の中新統より産するアツリアの分布から,当時の暖流(原黒潮と原対馬海流)によってアツリアの死後,浮遊性の殻が台湾,琉球方面から漂流したと議論され,古海流学の一分野が開拓された。現在,中~上部中新統からのアツリアは,茨城,富山,島根,山口,岐阜,三重,大分,福井,愛知,和歌山,埼玉などの14産地から報告されている。これを中期中新世初期の古地理図に入れると,当時南西日本は現在の黒潮と似た暖流に洗われ,太平洋側にその本流(原黒潮)があり,日本海グリーンタフ地域にはその支流(原対馬海流)が流れていたと推定されている。
→オウムガイ
執筆者:小畠 郁生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報