日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
アルスター・ユニオニズム
あるすたーゆにおにずむ
Ulster Unionism
アイルランドの自治・独立に反対し、イギリスとの連合を第一義として継続しようとする主張で、ナショナリズムに対立する政治思想。
1801年のイギリスとの連合王国形成以来、アイルランドではイギリス化が進んだが、19世紀末までは北アイルランドのプロテスタントにも自治主義の傾向が強かった。しかし自治運動が進み、1912年の第三次自治法案になって成立が必至となると、自治反対勢力はかつてイングランドやスコットランドから北アイルランドに移住してきたプロテスタント住民と先住のカトリック住民との潜在的対立を利用して、自治がカトリック支配であるとあおって、プロテスタント住民に恐怖心をつくり出した。ここに政治的信念としてのユニオニズムが成立したのである。このユニオニズムがアルスター・ユニオニスト党Ulster Unionist Party(統一党)として政党化され、さらに自治を武力によって阻止しようと1913年にアルスター義勇軍UVF(Ulster Volunteer Force)が結成された。
独立戦争によってナショナリストがアイルランド自由国を獲得したとき、ユニオニストは、イギリスを説得して北アイルランド6県を連合王国に残すことに成功した。しかしその北アイルランドは強烈なユニオニズムによるプロテスタント権力の国家であった。比例代表制の廃止によって議会と行政府を握り、強力な治安機構によってカトリックのナショナリストを支配した。この治安体制を支えたのが特別武装警察であるが、これはUVFを吸収したものである。現在はそのメンバーがアルスター防衛隊UDR(Ulster Defense Regiment)を組織し、その一部の強硬グループが以前のアルスター義勇軍UVFを名のっている。その中の最強硬派がロイヤリスト義勇軍LVF(Loyalist Volunteer Force)である。UVFと連携している政党が進歩ユニオニスト党PUP(Progressive Unionist Party)である。
北アイルランド最大のユニオニスト準軍事組織は1971年に結成、1992年に非合法化されたアルスター防衛協会UDA(Ulster Defense Association)で、連携政党はアルスター民主党UDP(Ulster Democratic Party)である。ほかにユニオニストの準軍事組織として、アルスター自由戦士UFF(Ulster Freedom Fighters)、レッド・ハンド司令部RHC(Red Hand Commando)がある。1991年にUDA、UFF、UVF、RHCが連合司令部CLMC(Combined Loyalist Military Commando)を組織している。
[堀越 智]
『小野修著『アイルランド紛争―民族対立の血と精神』(1991・明石書店)』▽『堀越智著『北アイルランド紛争の歴史』(1996・論創社)』