改訂新版 世界大百科事典 「アルスモリエンディ」の意味・わかりやすい解説
アルス・モリエンディ
Ars moriendi[ラテン]
15世紀の西欧社会に普及した小冊子で,〈死亡術〉あるいは〈往生術〉の意。黒死病(ブラック・デス)と呼ばれる14世紀のペスト大流行の惨禍により,死と直面した人々は,ただいかに死ぬかということを考え,死に方の手引きが求められ,こうした小冊子が流行した。臨終の床を囲んで,天使と悪魔が肉体を離れようとする霊魂をめぐって争うドラマを描写し,キリスト教徒としていかに死ぬか,臨終にどうふるまえばよいか,を説いたものである。説得的な文章と恐ろしい光景を描いた木版画により,当時の人々の心を強くとらえた。作者は臨終の床に立ち会った経験を多く持つ聖職者といわれ,ソルボンヌの神学者ジェルソンの小冊子にはじまるといわれる。15世紀の印刷術の発明と時間的に一致するこの〈死のガイドブック〉はベストセラーとなり,〈死の舞踏〉〈死の勝利〉などの画題と並んで中世末の時代思潮を如実に物語る。
執筆者:立川 昭二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報