改訂新版 世界大百科事典 「アーミル」の意味・わかりやすい解説
アーミル
`āmil
〈代行者〉を意味するアラビア語。公私いずれにおいても用いられるが,行政上では〈官吏〉〈役人〉とくに〈徴税官〉を指す。ムハンマドはイスラム教徒からの救貧税(ザカート)や非イスラム教徒からの貢納を徴収するために,アーミルを派遣したという。正統カリフ時代では,徴税官ばかりでなく,征服した州の総督を指すこともあった。ウマイヤ朝では,アミールと並んで,州の総督の意味で用いられたが,末期近くなって中央集権化が図られ,地方政治を軍事権と財政権とに分離するようになると,軍事を担当する総督のアミールに対し,財政を担当する者をアーミル,すなわち税務長官として派遣した。これは次のアッバース朝でも踏襲された。またアーミルは,このようにカリフ任命の高官についてばかりでなく,総督もしくは税務長官によって派遣される県レベルの徴税官やさらに下級の税務吏をも指し,後者については複数形のウンマールがよく史料で用いられている。
執筆者:森本 公誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報