イスラム法に定める信者の神への奉仕の義務(イバーダート)としての喜捨で,五柱の第3にあげられる。コーランのザカートは,サダカと同じく自発的な喜捨を意味していた。ザカートの本来の意味は〈浄め〉で,ムハンマドはメッカ時代からザカートを信者の重要な徳目の一つとし,その支払を絶えず呼びかけていたが,それは決して強制的なものではなかった。しかしムハンマドは630年以後,新たにイスラムの教えに従ったアラブに,サダカの名で家畜とナツメヤシの一定率の支払を強制し,初代カリフ,アブー・バクル以後その制度化が進められ,後に確立したイスラム法では,これをザカートと呼ぶようになった。法学派によって多少の違いがあるが,いまハナフィー派の定めるところによって,ザカート制度のあらましを記す。ザカートが課せられるのは,イスラム教徒の所有する,(1)通貨,(2)家畜,(3)果実,(4)穀物,(5)商品で,最後の商品には金銀と発見された埋蔵財貨を含む。いずれも1年以上所有していることが前提で,それぞれザカートの課せられる最小限が定められている。ザカートの課せられる率は,(1)は2.5%,(2)は種類によって差があるが,0.8%から2.5%,(3)と(4)は天水・流水灌漑の場合に10%,人力・畜力または特別の灌漑施設を必要とする場合には5%,(5)は年収の2.5%,金は5%,銀は2.5%,埋蔵財貨は20%とされる。次にザカートの使途は,(1)貧しい巡礼者,(2)托鉢デルウィーシュ,(3)借金を返済できない者,(4)乞食,(5)貧しい旅行者,(6)新改宗者,の援助のためと定められている。このようにザカートは,イスラム教徒に課せられた事実上の財産税で,しかもその使途が困窮者の救済のためと定められているところから,欧米の学者は多くこれを救貧税と呼ぶ。しかしザカートが政府によって徴収されることは,キリスト教の救貧税との大きな違いである。
執筆者:嶋田 襄平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…イバーダートは文字どおりには神への奉仕であり,宗教学でいう儀礼に相当する。後に五柱(ごちゆう)として定型化されたところから信仰告白(シャハーダshahāda)を除いた,礼拝,喜捨(ザカート),断食,巡礼のほか,コーランではジハードがとくに強調されている。ムアーマラートは文字どおりには行動の規範,なかでも信者同士の人間関係であり,これには姦淫をしないこと,孤児の財産をむさぼらないこと,契約を守ること,秤をごまかさないことといった倫理的なおきてのほか,婚姻,離婚,遺産相続,ハッド(犯罪)に関する規定から利子の禁止,孤児の扶養と後見,賭け矢や豚肉を食べることの禁止,日常の礼儀作法の心得までを含む。…
…ムハンマド・アブドゥフは近代の現実に直面するそのファトワーにおいて,ムスリムも利子や配当を受け取ることができる場合について認定した。現代の〈イスラム経済〉論において,利子の問題は,私的所有権やザカートと並んで最も重要な争点の一つである。それは銀行の利子生み活動をいかに是正するかといった金融業改革の実践を生み出している。…
※「ザカート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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