日本大百科全書(ニッポニカ) 「エレフシス」の意味・わかりやすい解説
エレフシス
えれふしす
Eleusis
古代ギリシアのアテナイ(アテネ)市の西方約20キロメートルに位置した重要な集落。古代名はエレウシス。エレフシス湾に面し、背後に肥沃(ひよく)な平野を有する。行政上はエレフシス区を構成した。この地にある農業神デメテルとペルセフォネ(コレ)の母娘神を祀(まつ)る神域で行われた密儀には、ギリシア各地から多くの人々が参加した。エレフシスの歴史は古く、ミケーネ時代に属する住居跡が発掘されている。アテナイへの併合については、従来紀元前7世紀のことと考えられてきたが、すでにミケーネ時代末期にはアテナイ領であったとする有力な見解が近年提出されている。エレフシスの中心は、周壁に囲まれた市域、アクロポリス、神域からなり、神域には、前6世紀に僭主(せんしゅ)ペイシストラトスによって建造され前5世紀に改築された、各種の宗教行事が行われる正方形のテレステリオンがあった。ペロポネソス戦争敗北直後の前403年には、アクロポリスが「三十人僭主」の拠点とされた。ローマ帝政期にも多くの建物が建てられたが、4世紀末以降はキリスト教の影響や西ゴート王アラリックの侵入によりしだいに廃れた。
現在は、ギリシア中東部、アッティカ県の港町。人口2万0320(1981)。アテネ―ピレエフス臨海工業地帯の一部をなし、港を中心に製鉄、セメント工業が行われている。ミケーネ時代の建造物やテレステリオンなどの遺跡が残る。
[前沢伸行]