日本大百科全書(ニッポニカ) 「オーギー・マーチの冒険」の意味・わかりやすい解説
オーギー・マーチの冒険
おーぎーまーちのぼうけん
The Adventures of Augie March
アメリカの小説家ソール・ベローの出世作となった長編小説。1953年刊。時代背景は1920年代のシカゴから大不況時代を経て第二次世界大戦後のヨーロッパに及び、作者の自伝的色彩が濃い。シカゴのユダヤ移民街に成長した主人公は、食い入るように周囲を見つめ記録していくが、やがて自らも人生のさまざまな場面に巻き込まれていく。その多くは金権亡者の兄とのかかわりと、彼自らの恋愛で、その恋愛の一つで彼は金持ちの女性についてメキシコへ行く。のちヨーロッパで別の女性と結婚生活に入るが、人生への幻滅が彼を冒している。ユダヤ移民街の描写、時代の感触、奇人のスケッチ、人生への形而上(けいじじょう)的思索など、いかにもベロー的特質に満ちた作品である。
[渋谷雄三郎]
『渋谷雄三郎訳『オーギー・マーチの冒険』(1981・早川書房)』