シカゴ(読み)しかご(英語表記)Chicago

翻訳|Chicago

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シカゴ」の意味・わかりやすい解説

シカゴ
しかご
Chicago

アメリカ合衆国イリノイ州ミシガン湖畔にある商工業都市。人口289万6016、大都市圏人口915万7540(2000)はともにニューヨークロサンゼルスに次いで第3位である。合衆国中部地域の行政・経済・文化・交通の一大中心地で、世界一忙しいオヘア国際空港(1日平均2300便)、世界一の穀物取引所、世界一大きい郵便局、世界一高いマンションのレイク・ポイント・タワー(70階、196メートル)などがあって、世界一が好きな都市として知られる。ミシガン湖岸には広い緑の公園とヨット・ハーバーがよく整備され、湖上から眺める都市景観のみごとさをも市民は世界一と誇りにしている。市名は先住民アルゴンキンのことばで「野生のニンニクあるいはタマネギのある場所」という意味のchicagou'に由来する。

 市はミシガン湖に注ぐシカゴ川の河口に位置する。湖岸から内陸に十数キロメートル入ると、氷河時代の堆石丘(たいせききゅう)が連なる。比高30メートルほどであるが、これが北アメリカ大陸の南北を分ける分水嶺(ぶんすいれい)で、これを境に南はミシシッピ川の流域でメキシコ湾へ注ぎ、北は五大湖を経てセント・ローレンス川の流域となる。1848年にこの低い分水嶺を刻んで運河が掘られ、五大湖とミシシッピ川が水路で結ばれたことがシカゴの発達の基礎となった。気候は最寒月(1月)の平均気温が零下5.6℃、最暖月(7月)の平均気温が23.4℃で、日本の盛岡とよく似ている。しかし、大陸性が大きく、とくに冬はカナダ極北から南下する寒冷気団を妨げる地形的障害がないため、零下25℃ぐらいになることも珍しくない。

 19世紀末までのシカゴの産業は、中西部のトウモロコシ、小麦、家畜、木材の集散と、製粉、食肉加工、木材加工が主であった。しかし、1959年にセント・ローレンス水路の改修が行われると、シカゴに外洋と直結する国際的工業港湾都市としての役割を加え、カルメット港の整備と工場地帯の造成により鉄鋼業と機械工業の集積が進んだ。ゲーリーサウス・シカゴなど都市圏内の諸都市とともに合衆国第二の重化学工業地帯が形成され、USスチール、インランドスチールなど鉄鋼業の主力工場、農業機械では世界最大級のナビスター・インターナショナルが育った。また、交通都市としての重要さは、鉄道時代が高速道路と航空機の時代に移っても変わらず、産業都市から商業・サービス・金融・文化・情報の都市へと幅を広げ、合衆国中西部の中枢都市の性格を強め、国内企業のみでなく外国商社の進出も著しい。交通上の利点から全国的な会議や展示会が催され、展示場やホテルが多い集会・会議都市でもある。

 観光の見どころは豊富である。シカゴ大火後に残骸(ざんがい)で埋め立てた湖岸の公園は、他都市に類をみない規模の大きさである。グラント公園には湖岸高速道が走り、市営飛行場、ヨットハーバー、自然博物館、水族館、プラネタリウム、野外集会場、野外音楽堂などがあり、中心に巨大で華麗なバッキンガム噴水がある。その北には湖岸に8キロメートルにわたってリンカーン公園が広がり、湖水浴場、ゴルフ場、射撃場、運動場、テニスコート、温室植物園、動物園などがある。摩天楼の発祥地であるシカゴは近代建築の集大成として国際的に定評があり、市内の建築をひととおり見て歩くと現代建築史を総括できるといわれる。なかでもフランス・ルネサンス風のリグレーチューインガムなどの食品加工会社)の白いビルは、夜は照明が当てられ、シカゴのランドマークとなっている。1973年に完成した大型百貨店シアーズの本社ビル(シアーズ・タワー。2009年以降ウィリス・タワーに名称変更)は高さ442メートルで、1996年までは世界一の高さを誇っていた。このビルの110階展望台「スカイデッキ」からの眺めも絶景である。ピカソがシカゴのためにデザインした鋼鉄の彫刻(高さ15.2メートル、重さ149トン)が玄関前を飾る市庁舎、穀物取引所、商品取引所などもガイドの案内で見物できる。都心に近いオールド・タウンは、手芸・民芸品店、レストラン、バー、ナイトクラブなどが集まっていて夜遅くまでにぎわう。一方、19世紀後半から20世紀初期の禁酒法時代にかけては、アル・カポネに代表されるシカゴ・ギャングが強大な組織をもち、犯罪都市の印象を深めたこともある。また、シカゴ交響楽団の本拠地であるほか、美術館、博物館の数も多い文化的な都市であり、ミシガン湖岸に建てられたジョン・G・シェド水族館(1930開館)、フランス印象派の作品を集めたシカゴ美術館、大規模な科学技術博物館などが有名である。イリノイ大学、シカゴ大学など水準の高い大学も多く、とくに医学部門をもつ6大学が集まっているため、医学では世界のメッカといわれる。

[伊藤達雄]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シカゴ」の意味・わかりやすい解説

シカゴ
Chicago

アメリカ合衆国イリノイ州北東端,ミシガン湖畔にある都市。合衆国有数の大都市で,気候は大陸的である。1803年要塞が築かれ,1832年入植が始まった。1848年イリノイ―ミシガン運河が完成し,1852年東部から鉄道が通じて交通の要衝,重要な港として急速に発展。南北戦争以後工業化が進み,商工業都市として繁栄し,大都市圏の人口で州人口の 53%を占める。トウモロコシ地帯,コムギ地帯を後背地としているため農産物の大集散地で,大規模な家畜市場がある。シカゴ商品取引所では世界のコムギ価格が決定されるといわれる。農業,鉱山,電気通信などの機械工業,畜産,車両工業が盛ん。またカリュメット地区の鉄鋼業,付近の石油,石炭の産出により重工業地帯を形成する。1871年の大火以後,労働運動が激化し,以後労働運動の中心地となる。金融の中心でもあり,シカゴ・マーカンタイル取引所には各国通貨の先物市場がある。住民はスカンジナビア人,ポーランド人,ドイツ人,ロシア人,アイルランド人など多様で,日本人,中国人も多い。20世紀初期の禁酒法時代は賭博と犯罪の町として知られ,地下組織の支配者アルフォンス・カポネは有名。市内には 110階建てのウィリスタワー(旧称シアーズタワー。442m),巨大なコンベンション施設であるマコーミックセンターなどが並び,北西郊外にオヘア国際空港がある。シカゴ交響楽団は世界的に著名で,シカゴ大学(1890創立),シカゴ美術館などの文教施設,シカゴ・トリビューンやエンサイクロペディア・ブリタニカなど,マスコミ・出版関係の会社も多い。人口 269万5598(2010)。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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