改訂新版 世界大百科事典 「カマイユ」の意味・わかりやすい解説
カマイユ
camaïeu[フランス]
単色の明暗のみで描いた絵画をいうが,金地に描いたものや素描に類するものは除外する。語源は低い起伏を意味するギリシア語のkamaiである。転じてレリーフ効果をもつような単色画の意味になった。イタリア産の装身具として著名なカメオも同じ語源をもつ。カマイユの語が普及したのは,18世紀初頭にフランスを中心として古典崇拝の気運が起こって以来である。技法としてはすでに1世紀初めに書かれたウィトルウィウスの《建築十書》の中に,壁画の中で柱列や破風をだまし絵風に描く方法が見いだされる。とくに15~17世紀のアルプス以北で祭壇画の一部に大理石彫刻をレリーフ風に描くことが流行した。また伝統的な油彩画の制作工程で半透明色を重ねて彩色する前処理としておもなものの形を単色の明暗で描くこともカマイユという。カマイユのうち白・黒・灰色の階調だけで描いたものをグリザイユgrisaille,褐色の階調のものをシラージュcirage,緑色調のものをベルダイユverdailleという。いずれもフランス語のgris(灰色),cire(蜜蠟),vert(緑)から派生した言葉である。なお有色下地を用いた油絵で,あらかじめ明暗をつけるために描く単色の下ごしらえをグリザイユと呼ぶこともある。
執筆者:森田 恒之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報