灰色を意味するフランス語グリgrisの派生語で、一般に無彩色の陰影の調子だけで仕上げた絵の総称として用いられる。一見して大理石の浮彫りのようにみえる効果を意図した技法であり、古代ギリシア・ローマ以来、建築の装飾壁画に多くの例がみられる。ゴシックのミニアチュール画家は、装飾写本の挿絵をこの手法で仕上げることもあった。北欧ルネサンスの祭壇画には、開いたときの色彩効果を考慮して、両翼が閉じられているときにはただ彫像が並んでいるかのようにみせるために、グリザイユを用いた例が多い。ファン・アイク兄弟のガンの祭壇画(聖バボン大聖堂)はその代表例である。なお、油絵の制作過程で、彩色する前に全体の明暗の調子をみるために描かれたモノクロームの下絵もグリザイユという。絵画だけではなく、ステンドグラスや陶器、ガラス、金属などの工芸品の装飾にもグリザイユが用いられている。
[長谷川三郎]
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…また伝統的な油彩画の制作工程で半透明色を重ねて彩色する前処理としておもなものの形を単色の明暗で描くこともカマイユという。カマイユのうち白・黒・灰色の階調だけで描いたものをグリザイユgrisaille,褐色の階調のものをシラージュcirage,緑色調のものをベルダイユverdailleという。いずれもフランス語のgris(灰色),cire(蜜蠟),vert(緑)から派生した言葉である。…
…伝統的な図像や,主題のディテールや構成の類型を描いた素描で,工房に伝えられ,制作の範例とされた。 これらのほか,黒灰の濃淡,すなわち灰色系のモノクロームによる明暗法のみによって描くグリザイユgrisaille(フランス語),灰色にかぎらず,単色の濃淡のみでイリュージョンスティックな表現を行うカマイユなどがあるが,それらは単彩であっても独立作品として意図されたもので,厳密には素描とは呼びがたい。ペン画,鉄筆画,鉛筆淡彩画などでも,発想の当初から独立した作品として意図されたものは,素描の素材を用いた単彩であっても,素描とは呼びがたい。…
※「グリザイユ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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