改訂新版 世界大百科事典 「カリムシャヒル」の意味・わかりやすい解説
カリム・シャヒル
Karim Shahir
イラク北東部,キルクークの東にある中石器時代の遺跡。この遺跡を標準遺跡としてカリム・シャヒル文化が設定されている。遺跡はR.J.ブレイドウッドが中心になって行ったクルディスターン地方の先史遺跡調査の際に発掘調査され,ザーグロス山麓地域の採集社会から農耕社会への過渡期の状況を示すものとして注目されている。遺跡の文化層は1層のみであるが,その範囲は60~70m2あり,当時としてはかなり広い面積をもつ。打製石器も出土しているが,完全に加工された典型的な石器はきわめて少ない。これに代わって,穀物利用と関連が深いと考えられる多くの石器が出土している。一部分磨かれた石斧,石皿および石杵がかなりの量出土しており,生活が大きく変わりはじめていることを暗示している。それ以前の狩猟に生業の中心を置いた生活から,穀物利用に依存する生活に変化したと考えることができる。またこの後の農耕村落に数多くみられるようになる〈地母神像〉と考えられるものも,数は少ないが出土している。建造物の跡を示すものはみられないが,炉址および礫があることは,ここを生活の根拠として一時期かなりの数の人間が利用したことを示していよう。まさに農耕開始直前の様相をみせている。人類の文明の生誕の根源となる農耕生活の起源を探る上において,もっとも重要視される遺跡である。
執筆者:藤本 強
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報