改訂新版 世界大百科事典 「クスタリ」の意味・わかりやすい解説
クスタリ
kustari
ドイツ語のKünstler(芸術家)を語源とするロシア語で,市場向けに工業製品を生産する小規模な経営者(とくに農民)をさす。1861年のロシアの農奴解放からソビエトの1920年代にかけて,とくに中央ロシアにおいて広範に展開し,農民の日常的な需要にこたえるあらゆる種類の製品(家具,食器,農具,靴,衣料など)や工芸品を生産した。ナロードニキのなかには,これを農民経営のなかで工業と農業が結合した独特な形態,〈人民の生産〉とみるものがあったが,レーニンは,それを資本主義の未発達な段階の工業形態とし,クスタリからマニュファクチュア,さらに機械制大工業へという通常の資本主義的発展のコースがあると主張した。ロシア革命後,1921年のネップの開始とともに,農民市場の擁護という観点からクスタリ工業は政策的に擁護され,またその協同組合化がはじめられた。しかし20年代末からの農業集団化において強い抑圧をうけ,その多くが消滅した。ソビエト政府はこの誤りを正そうとして,30年に手工業と農業とを地域的に結合した特殊な協同組合に組織しようとした。しかし当時同時に遂行されつつあった急テンポの工業化のもとで,この協同組合は次々と崩壊し,クスタリは国営工業の労働者かコルホーズ農民に転化した。55年にこの特殊な協同組合は公式に廃止され,60年までにソビエトのすべての工業が国有化された。
執筆者:奥田 央
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報