協同組合(読み)キョウドウクミアイ(英語表記)cooperative society 英語

デジタル大辞泉 「協同組合」の意味・読み・例文・類語

きょうどう‐くみあい〔ケフドウくみあひ〕【協同組合】

農林漁業者・中小商工業者、または消費者などが、その事業や生活の改善を図るために、協同して経済活動などを行う組織。農業協同組合生活協同組合など。

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精選版 日本国語大辞典 「協同組合」の意味・読み・例文・類語

きょうどう‐くみあいケフドウくみあひ【協同組合】

  1. 〘 名詞 〙 農民、中小商工業者、消費者などが、相互扶助、経済的便益の提供を目的として組織する組合。消費生活協同組合生産者協同組合に大別される。社会主義社会では、個人的所有を社会的所有に転化する過渡的な経済形態として行なわれる。
    1. [初出の実例]「まア協同組合、協同耕作、協同経営そんなものでも作って」(出典:不在地主(1929)〈小林多喜二〉七)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「協同組合」の意味・わかりやすい解説

協同組合
きょうどうくみあい
cooperative society 英語
Genossenschaft ドイツ語

経済的地位の弱小な農民、中小商工業者、消費者大衆などが、自己の経済的利益を維持、改善するため、互助の精神にたって、物資や用役の購買、生産、加工、販売、金融の一部または全部を協同で営む組合組織をいう。その特徴を要約すれば、第一に協同組合は、中小生産者もしくは消費者の組合であり、同じ組合であっても、労働者の組織する労働組合、使用者の組織する使用者団体、企業の組織する利益団体(たとえばカルテル)などとは本質的に異なっている。第二に協同組合は、物資等の購入、生産、販売など経済的事業を営む組織であり、政治、宗教、慈善、福祉などを営む組織ではない。経済的事業にはかならず資金が必要であるから、協同組合では、組合員は1口以上の出資をしなければならない。第三に協同組合は、組合員が協同して経済的、社会的地位の向上を図るために組織され、営利ないし利潤追求を目的とすることはできない。要するに協同組合は、「サービスの経済」であり、「組合員の入用充足経済」を特色とする。

[森本三男]

発達史

協同組合に類似した互助組織は、洋の東西を問わず、古い歴史をもっている。日本についていえば、鎌倉時代に始まる無尽(むじん)や頼母子講(たのもしこう)、江戸時代末期の二宮尊徳による報徳社などは、信用組合の性格をもっている。しかし、近代的な協同組合は、1844年にイギリスの工業都市ロッチデールRochdaleで28人の織物労働者がつくった消費組合に始まるとするのが通説である。それが「近代的」とされる理由は、現在の協同組合の基本原則の原形がそこにみられるからである。すなわち、(1)一人一票制、(2)政治および宗教上の中立、(3)組合による教育、(4)利子の制限、(5)購買高による配当、(6)市価販売などの原則が掲げられた。一般にこれらを「ロッチデールの原則」とよび、これが基礎になって今日の協同組合の諸原則が生まれてきた。

 ロッチデールに消費組合が生まれたころのイギリスは、産業革命によって労働者の生活が窮迫の度を高めつつあった。さらに、手工業者など小規模な生産者も、大規模企業の出現による圧迫に苦しんでいた。これらの事情が協同組合の結成を促進し、イギリスでは消費組合、フランスでは生産組合、ドイツでは信用組合、アメリカでは農業組合を中心に協同組合運動が進展した。19世紀末になると、協同組合の組織化が進み、全国的な連合会が出現する。また協同組合主義は、一つの政治的イデオロギーになり、社会改革の旗印に用いる者も現れたが、その後、協同組合の限界が十分に理解され、それが建設的補完制度であるとの位置づけが一般に定着した。

 日本では、1877年(明治10)ころより、生糸や茶の輸出業者による販売組合が生まれ、その後、農家の間に信用組合がつくられ、商人の圧迫に対抗して販売組合や購買組合も現れた。1900年(明治33)産業組合法が公布され、農業組合が普及した。これに対して消費組合は微々たるものにすぎなかった。23年(大正12)に全国購買組合連合会(全購連)、27年(昭和2)に大日本生糸販売組合連合会(糸連)、31年に全国米穀販売購買組合連合会(全販連)が生まれた。この間、商工業者による商業組合や工業組合も出現した。他方、消費組合を含む協同組合の普及が本格化したのは、第二次世界大戦後になってからである。

[森本三男]

基本原則

協同組合には、次のような基本原則がある。第一は組合の公開である。すなわち、宗教的、政治的、人種的にどのような人であろうとも、組合に迷惑を及ぼさない限り、組合に加入することができ、組合は加入させなければならない。第二は一人一票制である。民主主義的経営の原則ともいう。組合員には、出資額に関係なく原則として平等に1人1個の議決権が与えられる。この点で1株1票の「資本的民主主義」にたつ株式会社とは著しく異なっている。第三は、利用高による余剰金の分配である。協同組合は、実費で組合員に物資や用役を提供すべきであるが、危険負担などの理由から実費以上の価格や料金をとっている。そのため、正常な組合運営では余剰金が生じる。この余剰金は、組合の利用高(例、消費協同組合であれば購買高)に応じて組合員に分配(正しくは払戻し)されなければならない。第四は、出資金に対する利子の制限である。出資金には一定の対価が払われなければならないが、それは利子としてであり、したがって通常の利子率以下でなければならない。第五は、政治的、宗教的中立である。特定の政治的、宗教的立場にたつと、組合内部の対立を激化させ、分裂を招く危険があるからである。しかし、経済的事業は政治と深くかかわっており、現実には完全に政治的中立であることが困難な場合がある。たとえば、消費協同組合による公共料金値上げ反対運動などである。第六は教育の実施である。組合員と組合自体の発展のためには、講習や情報活動を通じ、教育啓発を必要とするということである。

[森本三男]

協同組合の種類

協同組合には多くの種類があり、分類の仕方によって各種の区分が可能であるが、機能別には生産協同組合と消費協同組合に大別される。前者について、法規上は農業協同組合、水産業協同組合、森林組合、中小企業協同組合に分かれ、それぞれ法律によって規制されている。中小企業協同組合を定めた中小企業等協同組合法(昭和24年法律181号)によれば、事業協同組合信用協同組合、協同組合連合会、企業組合があり、さらに事業協同組合から事業協同小組合と火災共済協同組合とが派生されている。

[森本三男]

事業協同組合

代表的協同組合で、商工業などの中小生産者によって結成される工業協同組合、商業協同組合などがあり、次の事業の全部または一部を行う。(1)生産、加工、販売、購買、保管、運送、検査などの共同施設、(2)組合員に対する資金貸付けと組合員のための資金借入れ、(3)組合員のための福利厚生施設、(4)組合員の経営や技術の改善に関する指導、知識普及のための教育、情報提供、(5)組合員の経済的地位を改善するための団体協約締結、(6)その他以上に付帯すること、などである。なお、信用協同組合は、組合員のための金融を中心事業とする互助組織である。以上のような事業協同組合および信用協同組合は、組合員の直接的結合によって組織されているものであり、このような協同組合を単位協同組合という。複数の単位協同組合が地域などを基盤にして連合体を形成したものを、協同組合連合会という。協同組合連合会もまた自ら、前述したような事業協同組合の行う事業を営むことができる。事業協同組合のうち、従業員が5人未満の零細事業者が組合員となってつくるものを、とくに事業協同小組合という。

[森本三男]

企業組合

各種協同組合中、協同組合の理念をより高次に具体化したものとして、企業組合がある。企業組合以外の各種生産協同組合は、中小生産者(農業以外はほとんどの場合中小企業)の連合体であり、各組合員は自己固有の生産活動を営んでいるから、協同組合自体は寄り合い所帯的な複合企業形態である。ところが、企業組合では、組合員の3分の1以上が組合の従業員となり、組合従業員の2分の1以上が組合員でなければならない。たとえば、組合員が30人であるとすれば、10人以上は組合の従業員となって組合の事業に専念しなければならず、組合員以外の組合事業従業員は、組合員従業員と同数以下でなければならないから、組合事業の最小規模は10人(組合員のみ)、最大規模は60人(組合員30人全員と組合員以外の従業員30人)となる。このことは、組合員が独立生産者たることをやめ、新しい独立事業体としての企業組合に結集することを基本的に企図しているとみることができる。これにより、協働の実は一段と高められる可能性があるが、現実にはかならずしもこのような企図が生かされているとはいいがたい。

[森本三男]

生産協同組合の機能形態

事業協同組合を典型とする生産協同組合は、次のようないくつかの機能形態に分けられる。

第一は、組合員の生産物を協同で販売する販売組合である。これは小生産者の少生産量、取引知識・能力の欠如、資金力貧困という弱点をカバーするもので、農産物の分野で早くから発達した。販売組合の販売方式にも、買取販売方式、委(受)託販売方式、仲介方式などがある。また、単純に販売を行うものと、選別のような単純な加工を施す加工販売組合とがある。

第二は、組合員の事業に必要な物資を協同で購入するための購買組合である。これは小生産者の少購入量、取引知識・能力の欠如、資金力貧困という弱点をカバーするものである。購買組合にも、買取購買方式(組合による一括購入と組合員への分売)、委(受)託購買方式、仲介方式などによるものがある。

第三は利用組合ないし助成組合である。これは組合員が共同で利用でき、個人では取得不能であったり非効率であるような施設、機材を備えて、有利に利用させようとするものである。大型農業機械、高価な工作機械、設備などが具体例になる。

第四は生産的組合である。これは、共同の事業場を設け、組合員の行う生産とは別に、組合員の生産物を加工し、あるいは組合員の必要とする物資を生産するものである。この方向を強化していくと、組合員の生産活動を組合のなかに取り込んでゆき、最終的にはすべての組合員が組合の事業場で生産活動に従事するものになるが、現実にこの段階に到達しているものはない。前述した企業組合はこの中間段階に位置する性格をもつ。

第五は信用組合である。法律にいう信用協同組合はこの機能のみをもっているが、農業協同組合は、この機能を組織の一部として組み込んでいる。信用組合は、小生産者のみに組合員を限る必然性はなく、消費者を組合員としてもよいので、生産協同組合と後述する消費協同組合の双方に関係しているといえる。実在する事業協同組合のうち充実発達したもの(例、大規模な農業協同組合)は、機能形態別に述べた各種組合の事業を兼営し、組織のなかに各部門として組み込んでいる。これに対し、低度なものは一ないし少数の機能を果たしているにすぎない。一般に、充実、発展の形としては、まず販売組合に始まり、購買、利用、生産的の各組合機能を追加していくものとみることができる。

[森本三男]

消費生活協同組合

消費生活協同組合法(昭和23年法律200号)によるもので、消費者を組合員とし、その生活に必要な物資等を廉価で共同購入することを目的とする。一般に生活協同組合(生協)という。消費協同組合にも種々のものがある。まず組合の扱う物資または用役の種類によって、食料、衣料などの日用生活品を扱う一般の消費組合、住宅建設のための住宅組合、医療組合などがある。また、組合員の範囲によって、同一地域に居住する市民一般を組合員とする地域組合、同一の事業所・学校等に所属する人を組合員とする職域組合に分けられる。日本では、職域組合が先行したが、近年、地域組合が急速に拡大、充実してきている。消費協同組合にも単位組合と連合会がある点では、生産協同組合と同じであるが、消費協同組合の場合、法人は組合員となることができない。

[森本三男]

内部組織

協同組合の内部組織とくにその最高経営組織は、いわゆる三権分立型のシステムになっている。すなわち、組合員全員で構成する総会が最高意思決定機関となり、原則的に1人1票の議決権による多数決方式により運営される。組合員が1000人以上の消費生活協同組合では、総会の開催は困難であるから、少なくとも100人以上の総代からなる総代会を設け、これによって総会にかえることができる。総代は組合員の選挙によって選出される。総会の下に理事と監事が置かれる。理事は総会で選出され、理事会を構成して業務執行にあたる。理事の人数は、生産協同組合では3人以上、消費生活協同組合では5人以上、その任期は、前者では3年以内、後者では2年とされている。監事は、総会のために財産状況を監査し、業務執行を監督する。監事の人数は、生産協同組合では1人以上、消費生活協同組合では2人以上とされ、その任期はそれぞれ理事の場合と同一である。

[森本三男]

『飯島源次郎編著『転換期の協同組合』(1991・筑波書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「協同組合」の意味・わかりやすい解説

協同組合 (きょうどうくみあい)
co-operation
co-operative society

ドイツ語ではGenossenschaft,フランス語ではsociété coopérativeという。協同組合の語は,今日においてはほとんどの国で法律によって定義された独自の経済団体の名称となっている。しかし元来は,資本主義の発展とともに生まれた協同組合思想,すなわち,個別的には経済的な力が弱いために資本の力に圧迫されることを強いられる労働者,小生産者,あるいは消費者がそれぞれの立場での経済活動を共同化することにより,その地位をいちじるしく改善することができる,という思想を具体化するものとしてつくられた組織の名である。この協同組合思想が明確なかたちで打ち出されたのは,19世紀初頭の空想的社会主義者たち以来であり,その一人であるR.オーエンが協同組合の父と呼ばれる場合も少なくないが,しかしその当時から協同組合思想の中にもさまざまな流れがあり,したがって具体的な組織の形態や運営の方針などの次元で協同組合の理念型とされるものはきわめて多様である。だが,ともかく上記の意味において協同組合といいうる組織は,現代においては全世界にわたって存在し,それらの全体を合わせると加入者数は十数億人に達すると見られている。

このような規模にまで拡大した協同組合の発展過程は,実質的には1844年にイギリスのランカシャーのロッチデールで約30人の織物工がロッチデール公正先駆者組合Rochdale Society of Equitable Pioneersなる消費組合を設立したことに始まる。この組合の活動が成功したことから,これにならって,(1)加入自由,(2)1人1票の民主的運営,(3)出資金への配当の制限,(4)剰余金の組合員への組合利用高に応じた分配,などのいわゆるロッチデール原則にもとづく消費組合が続々と設立され,この動きはさらに北欧諸国をはじめとするヨーロッパ各国から全世界へと広がっていき,この過程で,上記のロッチデール原則にのっとった協同組合に法制上の地位を保障する立法措置がとられるようになった。一方,これよりやや遅くドイツで,H.シュルツェ・デーリッチュの提唱によって都市手工業者の信用組合が,またF.W.ライフアイゼンの指導のもとに農業信用組合がそれぞれ設立され,これをはじめとして,資本の圧迫に悩む小生産者の協同組合も各国で発展をみることとなった。またとくにフランスを中心として,労働者による生産組合もさまざまなかたちで試みられた。なお革命以前のロシアでも各種の協同組合が発展しつつあったが,ソ連政府は国有化部門を補完するものとして協同組合組織を活用する方針をとり,消費組合および集団農場コルホーズ)は重要な役割を果たしてきた。他の社会主義諸国においても事情はほぼ同じであったが,このほかとくに特色ある協同組合組織としてイスラエルキブツが挙げられる。

 以上のような協同組合の発展とともに,国内的,国際的な組合間の連合組織も発展をとげてきているが,それらの中でもっとも重要なものとして,1895年に設立された国際協同組合同盟International Cooperative Alliance(略称ICA)がある。同盟はロッチデール原則にもとづく協同組合原則を定め,〈七色の虹〉を協同組合の世界統一マークとし,2年に一度の大会開催などを通して国際交流を図るほか,現在は国連経済社会理事会の非政府組織部門のメンバー団体の地位を占めている。加盟組合は,イギリス,北欧諸国をはじめ,ロシア,日本も含め1996年には103ヵ国にわたり,組合員7億以上となっている。なお同盟本部は設立以来ロンドンにあったが,82年にジュネーブへ移転された。

現在の日本では,協同組合とは現行の四つの協同組合法にもとづいて設立されている団体と理解されることが多い。それらの法律とそれぞれに規定された団体は以下のとおりである。

(1)農業協同組合法(1947年)--農業協同組合,農業協同組合連合会,農事組合法人,農業協同組合中央会。

(2)水産業協同組合法(1948年)--漁業協同組合漁業生産組合,漁業協同組合連合会,水産加工業協同組合,水産加工業協同組合連合会,水産業協同組合共済会。

(3)消費生活協同組合法(1948年)--消費生活協同組合,消費生活協同組合連合会。

(4)中小企業等協同組合法(1949年)--事業協同組合,事業協同小組合,火災共済協同組合,信用協同組合,協同組合連合会,企業組合,中小企業団体中央会。

 重要な関連法規として〈私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律〉(1949)がある。同法は,第24条に同法の適用を除外する団体として,〈1.小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること,2.任意に設立され,且つ,組合員が任意に加入し,又は脱退することができること,3.各組合員が平等の議決権を有すること,4.組合員に対して利益分配を行う場合には,その限度が法令又は定款に定められていること〉の各要件を備え,〈且つ,法律の規定に基(もとづ)いて設立された組合(組合の連合会を含む)〉を挙げている。この条文には協同組合の語は用いられていないが,これが上記の各協同組合法にもとづく団体を対象としていることはいうまでもない。しかも,それだけにとどまらず,他のいくつかの法律にもとづく団体にも適用されてきていることから,この独禁法第24条を日本法制においてもっとも包括的に協同組合を定義したものと解釈し,同条の適用対象をすべて協同組合とする立場をとる論者が少なくない。その場合,上記の協同組合法のほかに加えられる法律とそれにもとづく団体は,(5)森林法(1951年)--森林組合,森林組合連合会,(6)信用金庫法(1951年)--信用金庫,信用金庫連合会,(7)労働金庫法(1953年)--労働金庫,労働金庫連合会,(8)商店街振興組合法(1962年)--商店街振興組合,商店街振興組合連合会,(9)中小企業団体の組織に関する法律(1967年改正)--協業組合,などである。

 以上の法制上の協同組合のなかでもっとも重要なのは(1)の農業協同組合である。その中心をなす総合農協に限っても,1995年3月末現在で単位組合数2635,その正組合員数(個人・団体)546万1000,准組合員数350万5000で,94年度の販売事業取扱高6兆0116億円,購買品供給高5兆0922億円であった(農林水産省調査)。(3)の生活協同組合は,各種の組合を合わせて95年3月末現在の単位組合数1194,その組合員は4393万人で,94年度の供給事業は食料品を主として総額2兆9897億円であった(厚生省調査)。このほか96年3月末現在で,(2)の単位漁協は3912組合,95年3月末現在で,(5)の森林組合は4980組合であった。

 しかし先にも述べたように,協同組合とは必ずしもこのような現行の法律によって規定された団体の名称にとどまるものではなく,むしろ本来はより抽象的に定義された概念を表している。日本についても,この後者の意味での協同組合としては,現行法による協同組合を含めて過去,現在にわたるさまざまな組織が挙げられる。歴史的に見ると,もっとも古いものとしては,明治維新以前からの歴史を引きついで小農民の信用組合としての機能を果たした頼母子(たのもし)講,とくに二宮尊徳の創始した報徳社の活動がある。また,開国以来主要な輸出品となった生糸や茶の分野で1878年に設立された碓氷(うすい)社をはじめとするいわゆる上州南3社の生糸販売組合や,83年設立の益集社(静岡県)の製茶組合が現れ,一方,1879年に東京で生まれた共同社から消費組合の歴史も始まっている。しかし,決定的に重要な画期をなしたのは,1900年の産業組合法の制定であった。資本主義の発展とともに顕著となった小農民の没落の傾向を阻止することを目的に,ドイツ系の農村信用組合を移植しようとした高級官僚品川弥二郎,平田東助らの努力を基礎として成立をみた産業組合法は,今日の農協の前身である産業組合の急速な発展をもたらし,また数次の改正により市街地信用組合など各種の協同組合についての規定もそなえていった。この産業組合法にもとづく組織と並行して,とくに第1次大戦以後,労働運動の一翼としての労働者消費組合の成長も見られた。しかし,第2次大戦時には労働者消費組合は弾圧によって壊滅し,また産業組合も戦時統制機関の役割をになわされてついには協同組合の性格をまったく失うにいたった。その他の組合についても事情は同じであり,戦争末期には,もはや協同組合と呼べるものは日本には存在しなかった。

 敗戦をむかえると,いちじるしい経済困難を背景として協同組合の再建,新設への機運が急速に高まっていったが,そのことは,占領軍による一連の民主化改革と整合する協同組合関連法規の整備の必要を生み出した。このため,産業組合法に代えてまず農業協同組合法(1947)が制定され,ついで日本で初めて消費組合に固有の制度を与える消費生活協同組合法(1948)がつくられた。これらをはじめとして,現行法制の骨格をなす重要な法律のほとんどすべてが,占領期間中に一挙に制定されたのであり,またそれらの法律にもとづく組織の形成も,制定直後の1,2年の間に集中的に進行したのである。そして,その後の経済成長の過程で資本の巨大化が進むとともに,それへの対抗の必要から各種協同組合とも集約化の傾向を示しつつ今日にいたっている。それとともに組合の運営において一般組合員に対する専門職員の優位が強まるという問題が指摘されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「協同組合」の意味・わかりやすい解説

協同組合
きょうどうくみあい
cooperative

サービスの利用者が所有し,みずからの利益のために運営する団体。農産物の加工・販売,機器や原材料の購入のほか,卸売,小売,電力,信用・銀行業務,住宅産業など,多くの分野で成功している組織形態である。組合員は任意加入・脱退が認められ,出資額に関係なく平等の議決権をもち,出資者であり利用者であるという特色をもつ。小売協同組合の収益は,一般に一定期間の購入額に基づく配当のかたちで消費者に還元される。近代の消費者協同組合は,1844年にイギリスで設立されたロッチデール公正先駆者組合が始まりと考えられている(→消費生活協同組合)。協同組合運動は 19世紀後半にイギリスのイングランド北部とスコットランドの鉱工業地域を中心に急速に発展。やがてイギリス,フランス,ドイツ,スウェーデンの都市部の労働者階級や,ノルウェー,オランダ,デンマーク,フィンランドの農村部に広まった。アメリカ合衆国では 19世紀初頭に消費者協同組合や農産物販売協同組合の試みが始まった。多くは農村地域で発展したが,20世紀後半には消費者協同組合や住宅協同組合が大都市圏に浸透した。中南米では 1900年代初めにヨーロッパからの移住者によって協同組合が導入され,のちには農地改革にからむ国の措置として促進された。ソビエト連邦時代のソ連・東ヨーロッパでは販売協同組合が,中央統制された農産物購入網の一部として機能していた。またこれらの国々の集団農場は,農地を共同で所有・耕作し,作業実績に応じて収入を分配するロシアのアルテリ(農業生産協同組合)にならったものである。日本では事業分野ごとに農業協同組合法,水産業協同組合法中小企業等協同組合法,消費生活協同組合法などが制定され,各種の協同組合が事業活動を行なっている。

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百科事典マイペディア 「協同組合」の意味・わかりやすい解説

協同組合【きょうどうくみあい】

中小商工業者や小農民,消費者が相互扶助の原則で経済活動を協同する組織。事業は信用,購買,販売,利用加工等であるが,現在法制的には消費生活協同組合農業協同組合水産業協同組合森林組合中小企業等協同組合(事業協同組合,信用協同組合,火災共済協同組合,企業組合等に類別)等がある。
→関連項目協業組合産業組合ロッチデール組合

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世界大百科事典(旧版)内の協同組合の言及

【イギリス】より

…68年に発足した労働組合会議(TUC)は労働運動の〈内閣〉となり,70‐75年の労働組合法による組合の法的地位の承認,争議行為の正常化に貢献した。一方,1844年のロッチデール・パイオニア組合をモデルとする協同組合運動は消費者配当を特色とし,卸売部門にも拡大されて全国運動となるが,〈倹約〉の社会哲学のなかに埋没した。 イギリス資本の世界市場独占が終わる大不況期に社会主義運動が復活し(1881年の(社会)民主連合,84年のフェビアン協会,93年の独立労働党),新組合主義とよばれる不熟練労働者の組織化(1889年のガス労働者,港湾労働者)が進む。…

【トゥガン・バラノフスキー】より

…また《過去および現在におけるロシアの工場》(1898)でロシア経済の資本主義化を歴史的に実証し,〈合法的マルクス主義者〉として,これを否定するナロードニキを批判した。20世紀初頭,史的唯物論の理論的検討と批判を進め,カントの影響を受けた独自の社会主義思想を展開,これを現実化するものとして協同組合への関心を深めた。のちにその指導的理論家,活動家となり,東欧諸国の協同組合運動に影響を与えた大著《協同組合の社会的基礎》(1916)を書き,1917年全ロシア協同組合会議議長に選ばれた。…

【農業協同組合】より

…農業生産力の増進と農民の経済的・社会的地位の向上を図ることを目的とした農業者による協同組織体。日本では今日,農業協同組合法(1947)に基づき各地に農業協同組合が設立されており,農協またはJA(Japan Agricultural Cooperativesの略)と略称することが多い。 一般に農業は,他の産業と比べて人為的につくり出せない有限の土地を使わねばならぬ宿命にあるなど自然的,社会的にいろいろな制約があるため,大規模な企業的生産となることが困難である。…

※「協同組合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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