精選版 日本国語大辞典 「工業」の意味・読み・例文・類語
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農業、林業、漁業、水産業、牧畜業、鉱業など、自然に存在する資源を採取または育成する産業に対して、これらの生産物に道具や機械によるなんらかの加工を施すことによって多種多様な生産物(製品)を、一定の場所(たとえば工場)で一定量、連続的に製造する産業を工業industry、または製造業manufactory industryとよんでいる。
[殿村晋一]
工業は、各種食品加工に始まり、繊維・木材の加工品、各種鉱物資源の加工品、機械類、武器などとその範囲は広く、日本標準産業分類では、生産される財の種類に基づき、この製造業の業種を21の中分類、151の小分類、568の細分類に分けている。
工業化の発展段階を基準とするC・クラークの第一次、第二次、第三次産業という分類では、工業は、鉱業、建設業とともに第二次産業に含まれているが、鉱業は工業に原料を供給する産業であり、住宅、ビルディング、橋などをつくる建設業は工場生産を伴わない点において、工業(製造業)と区別される。第三次産業に含まれる商業・金融・保険・運輸・サービス部門は「もの」を生産しないという点で前二者と区別されるが、第一・第二次産業に資金・保障を提供したり、そこで付加された価値を「実現」するために不可欠な産業部門である。本来、工業的性格をもつ電力・ガス・水道などは、公益事業的性格が強いため、統計上、公益事業として分類され、製造業に含まれないのが普通である。
工業は、一般に消費財(食料品や衣服など非耐久消費財と、家電や自動車など耐久消費財)と生産財(原材料、部品、機械など)とに分けて考察するが、その目的は、(1)工業において生産される財貨が消費されるにあたって、人間が生活するための直接消費の対象となる場合と、他の財貨を生産するために利用される(生産的消費という)場合とがある、(2)品質、機能に優れた消費財を大量に生産するためには、数多くの生産財が必要となり、各種の原材料や部品(中間製品)や機械を生産する工業が分化し、それだけ社会的分業が拡大深化する、(3)したがって、技術が進歩すればするほど、商品の多様化と専門化が進み、工業の種類が多様化し、同一財貨に対する加工度も高まる(迂回(うかい)生産の発展)、(4)工業が高度に発達するに伴い、生産財を生産する部門の比重が増大する傾向がある、などを明らかにすることにある。この場合、とくに機械など生産手段を生産する部門を投資財工業とよぶこともある。
このほか、生産のために資材や材料を生産する素材産業、材料を加工して単品や部品などを生産する加工産業、部品や材料を用いて完成財を生産する組立て産業という分類も行われる。
さらに、生産技術上の相違に注目して、機械が素材に物理的な加工を加えることによって生産工程が進行する機械工業と、大型の生産設備を採用し、主として容器内部の化学反応によって生産工程が進行する装置工業(石油化学、石油精製、鉄鋼、非鉄金属など)とに区分することもある。これは資本主義の発展とも、エネルギー分野の変化(水力―石炭―電力―石油)とも関連する区分で、20世紀後半には、技術革新に促されて、装置工業と機械工業のコンビナート的結合が急速に進行している。
[殿村晋一]
〔1〕家内工業 工業生産のもっとも原始的な形態で、「自家消費」や貢納のため、家族構成員が協力して原材料の採取と加工を行ったもので、原始社会から古代・中世社会を通じて広く存在した。加工品の物々交換は原料資源の有無を基盤として発生するが、それが生業として狩猟・漁業・農業から分離することはなかった。
〔2〕手工業 工業が独立の生業として農業から分離する最初の形態は手工業である。これは、消費者の注文による製品の生産(顧客生産=注文生産)であった。古代都市文明の発生と同時に、王室直属の奴隷身分の手工業者が消費者である王室の材料給付によって生産に従事したが、都市文明の発展とともにしだいに独立するようになる。古典古代社会では奴隷を使用する奴隷制工房の展開もみられたが、独立の自営業として典型的な発展をみせるのは、中世ヨーロッパのギルド制手工業である。親方、職人、徒弟によって構成されるこの手工業経営は、近隣の領主や農民の需要にこたえたほか、彼らの製造する高級品は商人の手で遠隔地にまで運ばれた。手工業者たちは同業者の組合を組織し、相互扶助を強化したが、自由な生産活動は規制された。徒弟は親方の技術伝習を受け、職人として技能を磨き、親方への道が開けていた。親方と徒弟の関係は雇用関係というより師弟的な身分関係であった。手工業は、都市だけでなく、農村でも農家副業として広く分布し、日用的毛織物製品を中心に、編み靴下、編み帽子、フェルト帽、手袋、鉄製鍋(なべ)、フライパン、ナイフ、針、ピン、銅器などが、大青(たいせい)(染料)など新農産物とともに、農村経済を補完する役割を果たすようになる。農民による小営業=小商品生産の展開がそれである。
〔3〕マニュファクチュア 小農民の副業から始まった農村工業は、当初、農民から小商品を買い集める商人(問屋)に、原材料、道具、資金等の面での依存を深め、問屋制前貸制度のもとで低廉な加工賃を受け取るにすぎなかったが、しだいに資力を拡充し、専業化し、雇用労働者を増やし、複数の問屋の仕事をこなしたり、自らの資力で経営を維持するものが出てくる。資本家的経営の始まりである。このような経営をマニュファクチュア(工場制手工業)という。労働手段は手工業と同じく道具であるが、年季を積んだ職人の一貫生産と違って、工程別に分業と協業のシステムが導入され、都市手工業に比べ、生産力は大幅に向上した。イギリスの場合、マニュファクチュアの全盛期は16世紀後半から18世紀前半にかけてであった。
〔4〕工場制工業 産業革命を契機に、蒸気機関を動力とする各種機械が、工業生産のあり方を大きく変え、生産力は飛躍的に拡大した。綿紡績から始まった機械制工業は、織布、さらには毛織物など軽工業部門から、鉄鋼業など重工業部門に普及していく。軽工業部門で使用された作業機は、ほぼ全工程を機械が加工し、労働者は機械の補助労働を遂行するだけの存在に転化するため、婦女子・未成年・児童労働など未熟練労働者が大幅に採用された。機械の生産性を高め、大量生産を図るため、労働者には低賃金と労働時間の延長が押し付けられ、加えて機械の回転数をあげることによって労働の強度も強化された。繊維工業の発展は、繊維機械など各種機械工業、さらには工作機械工業を、また、その素材工業である鉄鋼業を発展させた。鉄鋼・機械工業での機械は道具機から発達したものが多く、熟練労働者が若い未熟練労働者を監督しながら生産にあたる場合が多かった。
この産業革命によって、イギリスでは、資本主義が本格的に確立し、国民経済に占める工業の比重が圧倒的に増大し、生産の主役を人間労働から機械に移し換え、資本の労働に対する支配が確立された。20世紀に入ると、工場制工業には、「オートメーション」化された自動化工場や巨大な装置をもつ化学工場やコンビナートが誕生する。最近ではコンピュータと産業用ロボットの導入による省力化の進展も著しい。
[殿村晋一]
最初に産業革命を実現したイギリスは、19世紀後半には世界の工業生産高の2分の1を占め、「世界の工場」として君臨した。20世紀に入るとアメリカの台頭が著しく、鉄鋼、自動車、化学工業を軸とする重化学工業の発展を基盤に、第二次世界大戦後には資本主義世界の最大・最強の工業国となり、戦後の先進国経済を特徴づける科学技術革命の先頭にたち、1953年に資本主義圏の工業総生産のなかば(55%)を占めるに至った。また、植民地の喪失や戦争の打撃を受けた西欧の復興援助と並行して、アメリカの巨大独占資本は積極的に海外に進出し、多くの世界企業・多国籍企業を誕生させた。冷戦体制下、資本主義世界体制を守る物質的基礎としての兵器生産(先端技術を集約した核ミサイル、航空・宇宙兵器など)が膨大な連邦政府の国防費支出によって肥大化し、アメリカ経済の軍事化と軍産複合体の形成が進み、民需部門(繊維、衣類、食品)が低下し、最近では自動車部門にも陰りがみえている。
第二次大戦後の先進工業国では重化学工業の比重が大きく増大した。西ドイツは、1950年代には石炭・鉄鋼、60年代には化学・電機・車両などの諸工業が、「経済の奇跡」とよばれる復興・発展を達成した。機械・金属・化学を中心に産業の近代化に成功したイタリアも同様である。フランスは鉄鋼・機械・電機・輸送機器・エレクトロニクス・航空機・兵器など重化学工業に対する国家資金の融資等によって経済近代化計画(企業の大型化、合理化)を推し進め、EC市場に半製品の輸出を伸ばすなど、ECの経済的統合の中心となっている。イギリスは全体に「停滞する経済」に悩んでいる。とくに、イギリス産業の発展の柱であった石炭と鉄がエネルギーの転換や国内資源の老化のため振るわず、機械工業(航空機・自動車・工作機械など)・化学工業を中心とする重化学工業化はそれなりに進んでいるが、かつてイギリスを代表した繊維産業は大幅に後退し、高級毛織物の世界的名声もしだいに薄れつつある。このようななかで、もっとも急成長し、現在もなお高い工業生産指数を維持しているのが、日本の重化学工業である。1980年代初頭の先進資本主義国における各国製造業の大きさは、アメリカを100とすると、日本がおよそ53、旧西ドイツが38、フランスが23、イギリスが15というところである(各国GNPに占める製造業の比率から算出)。なお各国GNPに占める製造業の割合は、81年の数字で、アメリカは22.4%、フランス26.2%、イギリス20.2%、旧西ドイツ36.4%、日本30%、イタリアは鉱工業合計の数字で33.4%である。ドイツと日本の経済は製造業の比重が高く、経済のサービス化(サービス産業)の発展がやや遅れているといえるだろう。
[殿村晋一]
日本においては、幕末期には手工業が支配的で、織物業にようやくマニュファクチュアの形成が認められる程度のものであった。明治政府は、アジアにおける西欧列強の動きに対して、富国強兵のため近代工業の導入(殖産興業)を急ぎ、製糸業、綿紡績業、官営軍工廠(こうしょう)を育成し、生糸輸出の外貨収入で軍需資材の確保に努めた。日清(にっしん)・日露戦争の勝利を背景に、鉄鋼業(官営八幡(やはた)製鉄所)、造船業など重工業が育成され、第一次大戦後、軍需に支えられた重化学工業の発展が、1929年(昭和4)恐慌をカルテル結成や大量解雇を含む合理化の強行を通じて切り抜けることによって可能となり、日中戦争前年には重化学工業の生産が軽工業を追い越し、戦時体制下では中小工場までが軍需生産に総動員された。農業への重税と「女工哀史」に代表される低賃金が、軍需と植民地市場依存型の工業発展を可能にしたのである。
第二次大戦で壊滅した工業は、敗戦時の1945年(昭和20)には、戦前水準(1934~36年平均)の10分の1に落ち込んだ。資金・機械・原材料の不足に耐えながらもしだいに回復し、47年には戦前の2分の1に達し、朝鮮特需を契機に急速に拡大軌道にのり、早くも51年には戦前水準を回復し、55年以降、重化学工業部門(機械・金属・化学など)の急成長を中心に高度成長期(~73年)に入った。57年に戦前の2倍、63年には5倍、70年にはほぼ14倍に達し、世界有数の工業国となった。この高度成長の原因としては、(1)戦後の民主的な諸改革が国内市場の拡大に寄与したこと、(2)欧米先進国からの技術導入を吸収・改良した優秀な労働力(技術者・労働者)が存在したこと、(3)比較的軽微な軍事費負担によって可能となった最新鋭機械に対する民間設備投資の拡大が工業に高い国際競争力を付与し、輸出が急成長したこと、などがあげられる。73年末の第一次オイル・ショックにより、工業生産は、エネルギー価格の高騰、総需要抑制(民間住宅投資・民間設備投資・公共投資の不振)から素材工業を先頭に内需が停滞し、また円高ドル安のため、輸出産業・中小企業を中心に深刻な不況に陥った。79年の第二次オイル・ショックを迎えて、素材産業(鉄鋼・化学・セメント・紙パルプなど)は、コスト面でエネルギー高騰を吸収できず、長期停滞を余儀なくされたが、加工組立て工業(自動車・家電・一般機械・工作機械など)では、徹底した合理化と省エネルギー対策(エレクトロニクスの応用による機械の軽量化・高機能化など)を推進し、高付加価値を生む高加工度型産業を中心になお高い国際競争力を維持している。IC(集積回路)はかつての鉄にかわって「産業のコメ」とよばれるようになった。また、繊維・造船・光学機械など労働集約型工業の韓国、東南アジアなどへの進出、さらには資源確保、経済摩擦解消のための資本のカナダ、オーストラリア、南米、アメリカ、イギリスなどへの進出(パルプ・金属・自動車など)も最近の特徴である。
[殿村晋一]
発展途上国の工業化は、一般に、まず輸入代替品の国産化から始まり、技術的に低位な消費財の工業化を達成している国も多い。しかし多少とも複雑な資本財や中間財部門への工業化の波及は、資金的に恵まれている産油諸国を含めて、国内市場の狭隘(きょうあい)性と技能工の不足が最大の障害となってこれを遅らせている。また、発展途上国で重化学工業化を推進しようとすれば、資本財の輸入、海外資金、技術導入の増加が避けられない。しかし、農産物や第一次産品の輸出による外貨収入が追い付かず、国際収支が急激に悪化し、ラテンアメリカやアジアでは、累積債務が返済不能なまでの巨額に達している国が増えている。ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、ベネズエラ、チリ、韓国、フィリピン、インドネシアなどがそれである。ラテンアメリカの場合、工業は、機械工業の比率は低く、自動車組立て部門を含む食品・繊維・木材加工など消費財生産部門の比重が大きい。鉱産物の一次加工、金属加工、鉄鋼業など素材産業も輸出向け部門としてかなり発展しているが、いずれの分野においてもアメリカ系外国資本と一部土着資本の独占度がきわめて高いのが特徴である。韓国、台湾、タイ、マレーシア、シンガポールでは、外国の民間資本の導入が積極的に進められ、組立て部門を中心に、欧米・日本などの多国籍企業の「分工場的性格」を強めている。
[殿村晋一]
『篠原三代平著『産業構造論』(1970・筑摩書房)』▽『中村静治著『産業構造論』(1973・汐文社)』▽『宮沢健一・竹内宏編『日本産業教室』(1976・有斐閣)』▽『鈴木圭介編著『アメリカ経済史』(1972・東京大学出版会)』▽『J・D・チェンバース著、宮崎犀一・米川伸一訳『世界の工場』(1966・岩波書店)』▽『林雄二郎編『フランス経済の現実と展望』(1967・東洋経済新報社)』▽『大野英二・住谷一彦・諸田実編『ドイツ資本主義の史的構造』(1972・有斐閣)』▽『中村孝俊著『日本の巨大企業』(岩波新書)』▽『アンドレ・G・フランク著、西川潤訳『世界資本主義とラテンアメリカ』(1978・岩波書店)』▽『鶴見良行著『アジアはなぜ貧しいか』(1982・朝日新聞社)』▽『篠田豊著『苦悶するアフリカ』(岩波新書)』
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