改訂新版 世界大百科事典 「クレメンスの手紙」の意味・わかりやすい解説
クレメンスの手紙 (クレメンスのてがみ)
Epistle of Clemens
96-97年ころ,ローマ教会の名でコリント教会にあてて書かれた手紙で,同教会内の混乱を収拾することが直接の目的であった。実際の著者はローマの第2あるいは第3代監督クレメンスといわれ,通常,偽書である第2の手紙と区別して《クレメンスの第1の手紙》と呼ばれる。本書の構成を見ると,最初から公の礼拝において朗読されるようにもくろまれたことがわかる。多くの勧告が述べられ,修辞上の技巧が用いられ,旧約聖書(七十人訳聖書)の詳細な引用がなされ,重要部分を祈禱で締めくくっていることなどはそのことを示している。ネロの迫害(5章),ドミティアヌスの迫害(1,7章)に言及があり,40~50章には礼拝式に関する叙述が見られ,とくに42章には使徒伝承についての議論がなされる。パウロの信仰を受け継ぐ者としては,その義認の理解は不十分であり,全般的に見て,ヘレニズムの影響を強くとどめていると言えよう。
→使徒教父
執筆者:川村 輝典
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