義認(読み)ギニン(その他表記)justificatio

デジタル大辞泉 「義認」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐にん【義認】

justificationキリスト教で、罪ある人間キリスト贖罪しょくざいによって正しい人として神に認められること。罪のゆるし。カトリックでは、義化という。

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精選版 日本国語大辞典 「義認」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐にん【義認】

  1. 〘 名詞 〙 ( [ラテン語] justificatio訳語 ) ( 「義」は正しいの意 ) 宗教用語。キリスト教において、神が人間の罪をゆるし、正しい人と認めること。また、キリスト教に入信すること。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「義認」の意味・わかりやすい解説

義認
ぎにん
justificatio

キリスト教神学で,人間を罪の状態からの状態へ移行させる神の行為をいう。元来ギリシア語の dikaioō (義たることを宣告する) という法廷用語から転用されたが,これがラテン語では justificare (義とする) と訳された。パウロによれば,人が神の前で義となるのはわざによるのでも,律法への従順によるのでもない。人間は神の前に義人として立つのではなく,神の恩恵に全面的に依存する罪人として立つ。神こそ罪ある人間を義なるものと呼ぶのである。人間の法廷では無罪のものだけが正しいとされるが,あらゆる人間が罪人であることを免れない神の審判の場では,義ならざる者が神の慈悲によって義者と宣告される。この宣告は恣意的なものではなく,「私たちの罪のために死に渡され,私たちが義と認められるために,よみがえられた」 (ローマ書4・25) イエス・キリストによるのである。こうして罪ある人間は,律法,罪,死から解放され,神と和解し,聖霊を通してキリストのうちに平安と生命をもつにいたる。罪ある人間は,こうして単に義と宣告されるだけでなく,真に義なる者となる。これにこたえて人間の側からは,神の慈悲の判決を受諾し,主なる神に全幅の信頼を寄せねばならない。すなわち,「愛によって働く信仰」 (ガラテア書5・6) をもたねばならない。以上の教説は,初期教会ではほとんど問題とならなかったが,わざによる自己聖化を唱えたペラギウス派との論争で,アウグスチヌスによって恩恵による義認が強調され,さらに中世後期のわざによる義認という表面的な考え方に戦いを挑んだ M.ルターによって一層徹底された。義認における神の行為の側面に重点をおいたルターは,その前提としての人間のわざを排し,「信仰のみ」 Sola fideの立場を取ったのに対して,義認の「結果」の側面に重点をおいたカトリック側は,トリエント公会議で,よきわざの必要をも強調してルター説を断罪した。しかし 20世紀の両陣営の多くの神学者は,両者の相違は概念理解の面だけで,信仰の本質においては根本的断絶はないとしている。以上の歴史的背景から,日本においては,プロテスタントが義認,宣義という訳語を好むのに対して,カトリックは成義,義化の訳語を採用し,罪の許しを意味する消極的成義と内的革新を意味する積極的成義を区別する。

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改訂新版 世界大百科事典 「義認」の意味・わかりやすい解説

義認 (ぎにん)

キリスト教において,救いについて述べるときの重要な用語。パウロの《ローマ人への手紙》3~6章によれば,救いは神によって義と認められることに始まり,さらに聖(きよ)くされることへと導かれる。これを〈義認〉と〈聖化〉といい,ラテン語ではjustificatioとsanctificatioと呼ばれる。カトリックがこれを成義と成聖と訳しているのは,救いが形をとって実現することに重点をおいて考えているからである。その場合,人間の側での条件や段階を表すために功績や恩寵の種類をあげることになる。ルターはそうした考え方を排除して,救いの無条件性を強調し,キリストへの告白と悔改めによる義認や,〈義人にして同時に罪人〉ということを語った。もっともプロテスタントの中でも,義認よりも聖化に重点をおく考えもあり,カルビニズムの聖職者重視や,敬虔主義における回心と聖潔の強調の中にそれが見られる。
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百科事典マイペディア 「義認」の意味・わかりやすい解説

義認【ぎにん】

キリスト教の救済論における中心的な概念。ラテン語でjustificatio,カトリックでは〈成義〉。パウロによれば,救いは神により義とされること(義認)に始まり,聖(きよ)くされることに至る(〈聖化 sanctificatio〉,カトリックでは〈成聖〉。《ローマ人への手紙》3〜6)。その理解,重点の置き方は教会によって相違がある。
→関連項目ルター

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世界大百科事典(旧版)内の義認の言及

【救い】より

…しかし救いの根拠が神の預定にあることも強調されている。ルターは教会の中に固定された制度を破って〈信仰のみ〉による救いの道を示したが,近代のプロテスタント教会では〈義認〉と〈聖化〉の関係が大きな問題であった。ピューリタニズムと敬虔主義においては,〈聖化〉とは神の見えざる預定と選びを見える仕方で実現するもので,これによって〈神の国〉の理念を社会的・倫理的に実現しようとした。…

※「義認」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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