改訂新版 世界大百科事典 「祈禱」の意味・わかりやすい解説
祈禱 (きとう)
祈禱は広義に解すれば,すべての宗教的祈願,祈念,祈りを意味する。この意味の祈禱は普遍的にみられる宗教現象である。この場合,祈禱とは,神や仏といった超自然的存在と信者との交流の一形態であると考えられる。祈禱はまず大別して,会話型と黙禱型の2類型に分けて考えることができよう。会話型とは声を用いて祈り言葉などを誦する祈禱であり,黙禱型とは心のなかで念じて祈る型である。もちろん両者とも付随的に,閉眼,合掌などさまざまな動作が並行的になされることもおおい。さらに祈禱を個人的タイプと集団的タイプに類別することも可能である。信者が聖像や宗教的シンボルの前で,あるいは心中にそれを思い浮かべて個人的に行うものが前者である。ところがそれが定型化され集団的になされるのが後者である。この場合,祈禱が宗教儀礼化されているといえよう。
祈禱はあくまでも祈る対象があって成立する。そのため神や超自然的存在を立てない宗教には祈禱や祈りは存在しないという考え方もある。原始仏教や禅仏教がその例とされる。しかし座禅やヨーガといった修行のなかには,全人格をあげ宇宙の真理の体得を目ざすといった広い意味での祈りの要素を見てとることもできる。研究者によっては,このような祈禱を神秘主義的祈禱とし,それに対して神をおき,それとの交流に中心をおく祈禱を預言者宗教的ないし対話的祈禱と名づけている。
祈禱の内容には請願,感謝,懺悔,賛美などがある。この場合,神や仏に対して具体的な効果やなんらかの直接的働きを期待するのは,純粋な意味での祈禱や祈りではないとする立場もある。神学者や宗教家の見解にもよくみられるし,またかつては未開宗教の研究者にも同様の見解が有力だった。そこでは,具体的効果を期待するものは,呪術ないし呪文であるとされる。そして呪文から祈禱および祈りへという進化が論じられた。しかしその後の研究の結果,呪文に満ちているといわれた未開宗教にも,高等宗教にみられるような祈りが存在することが判明した。また高等宗教の祈禱も呪文的性格を持ちうることも指摘されるようになった。キリスト教の主の祈りにせよ仏教の念仏にせよ,それが形式化され機械的に繰り返されることによって呪文的に用いられていることも現実に存在する。それゆえ最近では,呪文から祈禱へという図式はあまり論ぜられない。
日本語の祈禱の語は,とくにそれが〈御祈禱〉とされると,その意味がかなり限定されてくる。これは具体的な目的の成就達成を願って神仏に祈願する宗教行動をさす。家内安全,交通安全,病気平癒,五穀豊穣などいわゆる現世利益(げんぜりやく)を求めるものである。密教系寺院を中心に禅宗系や日蓮系寺院あるいは神社などで行われる。密教における護摩儀礼などがその代表例である。
→加持祈禱
執筆者:星野 英紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報