日本大百科全書(ニッポニカ) 「クーゼンベルク」の意味・わかりやすい解説
クーゼンベルク
くーぜんべるく
Kurt Kusenberg
(1904―1983)
ドイツの美術評論家、小説家。スウェーデンのイェーテボリに生まれ、ポルトガルのリスボンで幼年を過ごしたのち、ドイツのミュンヘン、ベルリン、フライブルクの各大学で美術史を専攻した。社会に出てからは『フォス』紙学芸欄記者として活躍。のちフリーの文筆家に転じ、物語、放送劇、映画のシナリオ、エッセイ、翻訳を手がける。ドイツ・ロマン派の伝統を受け継ぎ、グロテスクなユーモアが持ち味の短編作家として知られる。『ラ・ボテッラ、その他の奇怪な物語』(1940)、『蒼(あお)い夢』(1942)、『ひまわり』(1951)などの短編集に、ホフマン風の怪奇幻想物語の名品が収められている。『ラ・ボテッラ』はシュルレアリスム的筆致で、途方もない夢幻的世界を展開し、その姿勢はナチ時代の日常的現実に、意識的に距離を置いたものと評価されてもいる。編集者としては、ローウォールト書店のモノグラフィー・シリーズを創設した。1983年10月、ハンブルクで死去した。
[平井 正]
『種村季弘編、前川道介ほか訳『現代ドイツ幻想小説』(1970・白水社)』▽『前川道介訳『蒼い夢』(1990・郁文堂)』▽『前川道介ほか訳『壜の中の世界』(1991・国書刊行会)』