改訂新版 世界大百科事典 「グラートマン」の意味・わかりやすい解説
グラートマン
Robert Gradmann
生没年:1865-1950
ドイツの地理学者。ネッカー河畔のラウフェン生れ。チュービンゲン大学を卒業後,シュワーベンアルプにおける植生研究に従事し,後氷期の乾燥期にこの地方が樹林に乏しい乾燥性植生からなる〈ステップ荒原〉に覆われたと推定して植物地理学に新生面をひらく。その後A.ヘットナーの指導のもとに《中欧の景観像とその史的変遷》(1901)や《植物地理学と集落史の関係》(1906)などの論考において,中世南ドイツの平野で三圃農業を営んだゲバン村落の原型が,先史時代に〈ステップ荒原〉の泉のそばで成立し,山間に多い小村や散村は中世以降針葉樹林の開拓によって初めて成立したと主張する。彼以後の研究によって〈ステップ荒原〉にもカシの混交林があったこと,先史集落が散村ないし小村をなし,粗放穀草農業を営んだことが実証された。しかし彼が植生と集落史との生態学的研究に先鞭をつけた功績は大きい。1919年エルランゲン大学教授となり,31年地誌学の典型といわれる《南ドイツ》を公刊。〈調和景観像〉の提唱者としても有名である。エルランゲン時代の門下生に中心集落論を創始したW.クリスタラーがいる。
執筆者:水津 一朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報