日本大百科全書(ニッポニカ) 「サマッラー」の意味・わかりやすい解説
サマッラー
さまっらー
Sāmarrā'
イラク中部、ティグリス川東岸、バグダードの北北西約96キロメートルにある町。アッバース朝の第8代から第15代カリフまでの約50年間の首都。836年第8代カリフのムータシムが彼のトルコ傭兵(ようへい)に対するバグダード市民の反抗を避けてこの地に遷都して以来、代々のカリフが広大な寺院や宮殿を造営した。884年第15代カリフのムータミドがバグダードにふたたび遷都したため急速に衰微したが、シーア派イマームたちの聖所や墓廟(ぼびょう)があるところから、現在も同派の聖地となっている。1910年代にドイツの調査団に、1930年代にはイラク政府の調査団によって発掘された。遺構としては、第10代カリフのムタワッキルの建てたイスラム最大規模のモスクとその螺旋(らせん)状の尖塔(せんとう)、アブー・ドゥラフのモスク、ムータシムの宮殿ジャウサク・アルハーカーニー、バルクワラーなどがある。発掘された出土遺物は製作年代が明らかなため、イスラム美術や建築の発展を知るうえで貴重な資料になっている。
[森本公誠]
2007年、「都市遺跡サマッラー」として世界遺産の文化遺産(世界文化遺産)に登録されたが、イラクの情勢が不安定なことから、同時に危機遺産リストにも登録された。
[編集部 2018年5月21日]