改訂新版 世界大百科事典 「サームコック」の意味・わかりやすい解説
サームコック
Samkok
元末明初の羅貫中作《三国志演義》のタイ語欽定訳本。ラーマ1世の1802年ごろ,詩人チャオプラヤー・プラクラン(本名ホン)が翻訳主任に任命され,福建華僑の口述をもとに訳を完成させた。かなりの誤訳があるものの,訳文は流麗簡潔一字も間然するところがなく,タイ語散文の最高傑作と称される。第55章以後は文体がやや異なるので,おそらく別人の筆であろう。ヤーコープ(?-1956)の名作《十方勝利者》はこの文体を模倣したものである。以後これを範とし第2次大戦までに三十数作の中国歴史小説がタイ語訳されたが,この訳にまさる作はない。部分的に小・中学校の国語読本に採用され全タイ人に親しまれているが,これを中国の正史と誤解するタイ人も多い。
執筆者:冨田 竹二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報