中国の長編歴史小説。後漢(ごかん)末から魏(ぎ)・呉(ご)・蜀(しょく)三国の鼎立(ていりつ)時代を経て晋(しん)による天下統一に至る歴史を、前半は劉備(りゅうび)・関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)3兄弟らの武勇を、後半は諸葛孔明(しょかつこうめい)の知謀を中心に据え、正史である陳寿の『三国志』に基づきつつ、七分の事実に三分の虚構を交えて敷衍(ふえん)(演義)した小説。『水滸伝(すいこでん)』『西遊記(さいゆうき)』『金瓶梅(きんぺいばい)』とともに四大奇書の一つ。
[大塚秀高]
この書の長い成立史には三つの大きな節目がある。(1)『三国志平話(へいわ)』の成立と刊行、(2)明(みん)初の羅貫中(らかんちゅう)による『三国志演義』の完成、(3)清(しん)初の毛声山(もうせいざん)・毛宗崗(そうこう)父子による「毛宗崗本」の刊行がそれである。三国の史実をテーマとした講釈が唐末にすでに行われていたことは、李商隠(りしょういん)の詩などにうかがえる。これが宋(そう)代では講史(講釈の一種)のなかでも「説三分」とよばれ、五代史語りとともに絶大な人気を博していた。この講釈のテキストの流れをくむと思われるのが、元の至治年間(1321~23)に刊行された『三国志平話』であり、元末明初にかけての覆刻本『三分事略』である。羅貫中はこれをもとに、その枕(まくら)となっている司馬仲相(しばちゅうしょう)転生談を除くなど、荒唐な面を史書によって改め、蜀漢正統論の立場にたって劉備・曹操(そうそう)の善悪の色分けをより明確にし、張飛中心を関羽中心に書き換える一方、『三国志』の裴松之(はいしょうし)の注や当時の三国劇、民間説話をも利用して10倍ほどに膨(ふく)らませ、『三国志演義』をつくった。この羅貫中の原本にもっとも近いとされているのが、24巻240節よりなる「嘉靖(かせい)本」である。その後、万暦年間(1573~1619)に、早く説唱詞話として語られていた花関索(かかんさく)説話を取り込んだ刊本が相次いで刊行されたが、このうちの李卓吾(りたくご)評本に基づき、文語と口語を人物の性格・身分などによって意識的に使い分けた演義体を、より読書人好みに改めた19巻120回の「毛宗崗本」が刊行されるに及び、以後はもっぱらこれのみが広く流布するに至った。
[大塚秀高]
後漢末の乱れた世に、張角が黄巾(こうきん)の乱を起こす。これを憂えた漢室の末裔(まつえい)劉備が関羽・張飛と義兄弟の契りを結び(桃園結義)、各地に転戦して大功をあげたが、しかるべき論功行賞はなく、不遇の日々を送る。そのころ朝廷では宦官(かんがん)と外戚(がいせき)の権力争いが頂点に達し、朝権は董卓(とうたく)に壟断(ろうだん)される。董卓暗殺に失敗した曹操は天下の諸侯にその誅滅(ちゅうめつ)を呼びかける。これに応じた諸侯のなかで、江南の地の利を得た孫権と、諸葛孔明を三顧(さんこ)の礼をもって参謀とした(三顧草廬(そうろ))劉備とが頭角を現す。劉備はつねに劣勢にあったが、呉と連合して赤壁(せきへき)で曹操の軍船を焼討ちにし、魏(曹操)・呉(孫権)・蜀(劉備)三国の鼎立(ていりつ)がここになった。しかし呉・蜀の間には荊州(けいしゅう)の帰属をめぐって争いが絶えず、これがために関羽、張飛が相次いで死ぬに及び、劉備は孔明の反対を押し切って呉を討つべく大軍を起こすが、惨敗を喫して白帝城にて死ぬ。孔明は劉備の子禅(ぜん)を帝位につけ、呉と和解し、中原(ちゅうげん)の奪回を目ざしてしばしば打って出るが、ついに志を果たさぬまま五丈原(ごじょうげん)で病没した。蜀はその30年後に魏に滅ぼされ、呉も、魏の禅譲を受けたかつての孔明の好敵手司馬懿(しばい)の子孫の建てた晋(しん)によって滅び、天下は晋によって統一された。
[大塚秀高]
『三国志演義』の出現はあらゆる時代の演義の誕生を促したが、これを凌駕(りょうが)する作品はついに現れなかった。他の作品が史実にとらわれ、その積み重ねに終始したためと、三国鼎立という状況が小説化するのに向いていたからといえよう。日本では湖南文山(こなんぶんざん)訳の『通俗三国志』が1689~92年(元禄2~5)に刊行されて以来、いまに至るまで人々に親しまれている。
[大塚秀高]
『小川環樹・金田純一郎訳『三国志』全10冊(岩波文庫)』▽『立間祥介訳『中国古典文学大系26・27 三国志演義』(1968・平凡社)』▽『湖南文山訳『通俗三国志』全10巻(1982~83・第三文明社)』
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