改訂新版 世界大百科事典 「シュンティパス」の意味・わかりやすい解説
シュンティパス
Syntipas
中世ギリシア娯楽短編小説集。正しくは《哲学者シュンティパスの物語》という。ペルシア語人名シンドバッドから派生したシュンティパスの名が裏書きしているように,ペルシア起源の題材も含まれ,11世紀末アンドレオプロスMichaēl Andreopoulosが編纂した。このギリシア語版の底本となったシリア語版は,9世紀のムーサーによるアラビア語版を介してパフラビー語原本までさかのぼるが,いずれも今日に伝わらないため,このギリシア語版が最古のテキストを示す。王妃の讒言で死刑を言い渡された王子をめぐって,王子側の七賢人と王妃側とが,それぞれ言い分を王に納得させようとして繰り広げる数多くの短い物語から成る。《クロイソス王の宮廷での七賢人の集い》のような,ヘレニズム時代の枠小説の伝統を引き,挿入された個々の物語を上位のモティーフがゆるくくくっている。ここに含まれた短編物語の多くが,《千夜一夜物語》にも共通する一方,《デカメロン》にいたる西方文学作品にもとり入れられた。
執筆者:渡辺 金一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報